12月21日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(五十六)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰しており、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回は「アーケードVRの展望 2017年-2018年」と題し、アミューズメント施設などで展開しているアーケードVR、ロケーションベースVRについて、登壇者それぞれの立場から、2017年の振り返りと2018年の展望を語った。
登壇したのは、コーエーテクモグループでアミューズメント関連事業を手掛けるコーエーテクモウェーブ 代表取締役社長の阪口一芳氏、「東京ジョイポリス」をはじめとする屋内型エンタテインメントパークなどを手掛けるCAセガジョイポリス エグゼクティブ・プロデューサー兼チーフ・クリエイティブ・アドバイザーの小川明俊氏、VRエンタメ施設「VR ZONE SHINJUKU」を手掛けるバンダイナムコエンターテインメント AM事業部 エグゼクティブプロデューサーの“コヤ所長”こと小山順一朗氏と、AM事業部 AMプロデュース1部 プロデュース4課 マネージャーの“タミヤ室長”こと田宮幸春氏の4人。
冒頭の話題は、トークセッション当日に稼働が開始となった、コーエーテクモウェーブのアーケード向け体感型VRマシン「VR センス」について。デバイスにはPlayStation VRを活用し、多機能3Dシートや送風機能をはじめ、香りやミスト、暑さや冷たさも感じるような8つのギミックを搭載したマシンとなっている。
阪口氏によれば、VR センスの開発はテクモ創業50周年の記念事業として、2016年5月から開発を開始。起案者はコーエーテクモホールディングス代表取締役会長である襟川恵子氏で、熱意はあったものの役員陣からは大反対を受け、ゲーム開発を手掛けるコーエーテクモゲームスから人は出せない状態になっていたという。
そういった状況もあり、コーエーテクモウェーブが手掛けることとなったが、同社はアミューズメント施設の運営やパチンコならびにスロットマシンの液晶の開発がメインとなっており、ゲーム開発の経験者はほとんどいない状態。さらに襟川氏はクリエイティブに強いこだわりを持っていることでも知られており、開発はかなり苦労したと振り返る。
稼働前にロケーションテストを行ったが、すこぶる反応がよく、特に女性客が熱心に体験しようと並んでいたのが印象的だったという。このときは、女性向けゲーム「ときめきレストラン☆☆☆」のキャラクターたちが登場する「3 Majesty × X.I.P. DREAM☆LIVE」は実装しておらず、「超 真・三國無双」を熱心にプレイしていた様子が印象に残っていると語った。
小山氏は、VR センスの筐体内に荷物などが収納できるロッカーが付いていることに感心したという。ゲームのプレイ中やシール機における盗難は、アミューズメント施設においてもしばしば問題となるところ。VRデバイスを装着するとなおのこと、外の様子は見えない状態となるため、開発段階から配慮を想定していたとし、プレイ中には自動的にロックがかかる仕様になっているという。
また小川氏からは、こういった五感を刺激するとうたうVR筐体について、海外でもあまり聞いたことがないとし、「日本ならではの、アーケード市場に着目したもの」と語った。
筐体のカラーリングが「スパークリングシルバー」と「スパークリングブルー」の2種類となっており、搭載されるタイトルが異なっていることについても言及。初期状態では3つずつのコンテンツが収録されているが「最大5つのコンテンツが搭載可能であり、より多くのタイトルを展開するため」と説明。また、シルバーは主に男性向け、ブルーは主に女性向けをイメージしたコンテンツを搭載。これは「男性が装着したヘッドマウントディスプレイを、女性が装着することに抵抗感がある方を意識した」と理由を語った。
VR センスの今後の展開について阪口氏は、初期段階ではアミューズメント施設で導入していくが、テーマパークや宿泊施設、空港などの展開も検討しているという。また、老人ホームなど介護施設に設置し、なかなか自由に外出ができない方向けに、思い出の場所などを体験してもらう活用方法も考えているとした。
東京ジョイポリスには、オーストラリアのZERO LATENCYが開発した多人数同時プレイが可能なフリーローム型VRシステム「ZERO LATENCY VR」を、2016年7月に導入。初期段階ではゾンビを倒していく「ZOMBIE SURVIVAL」を展開し、現在は探索型シューティング「SINGULARITY」を稼働している。小川氏によれば、現在のところ稼働から約1年半が経過したこともあり、平日は多少余裕がある状態という。もっとも、導入後半年間はフル稼働していたとし、SINGULARITYも人気が高いとしている。
また、ZERO LATENCY VRは前述の2つに加え、パズルタイプのゲームの3つが搭載されており、最大6~7タイトルをワンクリックで変更できるシステムになっているという。現状では事前予約制であることや、安定したオペレーションの運用を行うため1タイトルに固定しているものの、ゆくゆくは体験者の希望にあわせてソフトを選択できるような運用を視野に入れているという。こうした運用ができるのもフリーローム型VRシステムの利点とし、特にロケーションビジネスとしてある程度のスペースを使うものであれば、初期投資と回収を考えると、ソフトの切り替えができるのは必要なことだと語った。
今後において、テーマパークやアミューズメント施設以外にも、カラオケボックスやネットカフェ、サバイバルゲーム施設などといったエンタメ施設まですそ野が広げられるような、新たなVRの展開ならびにビジネススキームを検討していることを明かした。eスポーツとしてもなりえるような内容で、プレーヤーの育成やモチベーションの向上を通じて、何度も足を運んでもらえる取り組みを試みるという。まだ詳しくは語れないとしながらも、そう遠くない段階で発表ができる見込みで、テスト段階でも好感触を得ており「大きな戦略的VR展開のひとつ。かなり盛り上がると思う」と自信を見せていた。
VR ZONE SHINJUKUは7月14日に新宿・歌舞伎町TOKYU MILANO跡地で開設し、人気を集めている。田宮氏によれば、現状では休日は混雑した状態が続いているものの、平日は比較的テンポよく遊べる状態になっているという。田宮氏は「建物から内部の様子が伝わらないため、開設初期の混雑しているイメージが尾を引いている状態だが、平日は快適に楽しめる」と説明。ちなみに平日は海外からの観光客が多いという。
新作としてフリーローム型VRアクティビティ「近未来制圧戦アリーナ 攻殻機動隊 ARISE Stealth Hounds」が、12月から導入。田宮氏によれば想定以上の満足度の高さがあり、手ごたえを感じているという。
運用面でのエピソードとして、システム上は8人同時対戦が可能としているものの、安全性を見極めたオペレーションを確立するまでは人数を減らしたうえ、スタッフもサポートに入る形で運用を行っていたが、田宮氏によれば、モーションキャプチャの精度が高いことや、素早い移動が不利になるルールを盛り込んだことから、プレーヤーがちゃんと避けて接触を回避している状態であるため、現在はスタッフを入れずに人数を増やしている段階だという。また、1人分だけ枠が空いた時に当日参加を募集するものの、来場者の多くが2人組のカップルや4人組グループであるため、なかなか埋まらないことを挙げていた。
来場者に複数人が多いことに関連して、「エヴァンゲリオンVR The 魂の座」におけるエピソードも披露。トークセッション時点では3人1組でエヴァに乗り込む内容となっており、小山氏によれば世界観を重視して「3機で出撃するもの」と思い込んでいたという。もともと施設にはグループ客を呼び込むことを想定し、VRアクティビティの新作もマルチプレイによりみんなで楽しむものを用意していた。そのメッセージ自体は伝わっていたが、結果として1席空けて稼働することがかなり多くなってしまったことを、反省点に挙げていた。
なお、トークセッション中では触れられなかったが、エヴァンゲリオンVRは12月27日にアップデートを行い、4人同時プレイに対応した。
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