ロケーションベースVRが元気に見えた1年--関係者が語った現状と2018年の展望 - (page 2)

“13歳問題”とVRを体験したくなる環境づくりの重要性

 安全性にまつわる話題で、俗に“13歳問題”と呼ばれる、VRコンテンツの年齢制限や自主規制についても言及。これは13歳未満の子どもが2眼タイプのVRデバイスを使った立体視コンテンツを視聴すると、斜視などの悪影響を与える危険性があるとされ、利用は非推奨となっている問題。

田宮幸春氏
田宮幸春氏

 これについては田宮氏が、2017年7月に活動を開始したロケーションベースVR協会において専門家や小児科医を交えて、業界として新たなガイドラインの制定を検討していると語る。これはデバイスメーカーは家庭での利用を想定してガイドラインを敷くが、アーケードVRは比較的利用時間が短いことや、施設運営者が体験者を監視できる環境があるため、違うガイドラインが制定できる可能性もあるという。

 さらに田宮氏はVRデバイスだけではなく、コンテンツの内容に応じても別のレイヤーで推奨年齢はあるとし、ハードとコンテンツによる年齢基準と、アーケードVRの運営も考慮したうえで適切な推奨年齢や年齢制限が定められていくのではないかという考えを示した。

 VR センスについては、デバイスがPlayStation VRを活用している関係上、年齢制限も発売元であるソニー・インタラクティブエンタテインメントが定めるガイドラインに沿ったものにすると阪口氏は説明した。

 小川氏からは海外の事例を紹介。中国では3~4年ぐらい前に、ショッピングモールのなかに、子ども用の乗り物を活用したVRが人気となって広まったという。そういったことから、年齢制限の意識は低いという。もっともこういったことが広まったうえ、クオリティも高くなかったために、「VR=子どもの乗り物」というイメージが先行しており、VRの価値が低いという。

 韓国でも、7月ぐらいにショッピングモールに大型のVR施設ができたとのことだが、基本的に対象は子どもで、小川氏の記憶によれば、おそらく年齢制限もなかったという。そうした子どもがVRに親しむようになると、従来型のテレビゲームには戻れずに、より関心を持つようになる。そうなると、この先ロケーションビジネスにおいてVRがベースになるだろうとの展望を語った。

 また韓国の事例を見るに、VR体験の提供の仕方や環境づくりにも工夫が必要だと小川氏は考えているという。日本では体験しているところを見られるのが恥ずかしいという羞恥心が働きやすく、VRを体験できる機器が設置してあるだけでは、興味があっても手を出しにくいと説明する。韓国のこの施設ではボックス型のルームで5~6人で遊ぶようなシステムとなっており、楽しみやすい環境になっているという。

 国内においても、梅田ジョイポリスにて稼働している2人用VR脱出ゲーム「エニグマスフィア」では、空間を区切って設置。このように、体験する人が同じモチベーションを保ち、マインドを整えていく環境づくりがアーケードVRでは重要だとした。

 この意見には田宮氏も同意。衛生面の配慮から目の周りを覆う紙製のフェイスマスクを配布する形となっているが、当初は社内で「誰も付けたがらない」「女性には無理」という意見が強くあがっていたと振り返る。しかしながら実際に配布してみると、遊びに行った証拠のような形で、フェイスマスクを装着した状態の写真を自撮りしたり、SNSに投稿する来場者が続出。施設に入った来場者のモチベーションが保たれていることの証明でもあった。

 小山氏も、過去回転寿司のお店にゲーム機を置く実験をしたが、まったく遊ばれなかったことを例に出し、「ここは遊ぶところ」と来場者が理解したほうが楽しみやすいと主張。2016年に期間限定で展開していた前身の「VR ZONE Project i Can」は、お台場のダイバーシティという商業施設内にあったことから、完全予約制だったとはいえ、遊ぶ場所だという意識付けができていたと振り返る。VR ZONE SHINJUKUは施設ごと作ったが、外側から中の様子が見えない状態でもあり、今後は遊ぶ場所、楽しい場所というアピールをしないと、さらなる集客は難しいとも語った。

約1時間半のトークセッションでは、小川氏が新たな展開に自信満々で強気な発言が飛び出したほか、小山氏がある有名ゲーム開発者が来場した時のエピソードを披露するなどオフレコ話もあり、大いに盛り上がっていた
約1時間半のトークセッションでは、小川氏が新たな展開に自信満々で強気な発言が飛び出したほか、小山氏がある有名ゲーム開発者が来場した時のエピソードを披露するなどオフレコ話もあり、大いに盛り上がっていた

ロケーションベースVRが元気に見えた1年

 海外ユーザーが見た日本のVRコンテンツの反応についても話題となった。小山氏と田宮氏によれば、「ドラゴンボールVR 秘伝かめはめ波」や「機動戦士ガンダム 戦場の絆 VR」では、本当になりきってセリフを言うなど、全般的にリアクションが大きいという。また「急滑降体感機 スキーロデオ」も意外と好評で、オープン直後は海外の人を中心に長い列ができることもあったとし、体の動きが大きいほうが楽しそうに映る傾向があると語る。

 一方で、思ったよりも反応が乏しかったものに「ホラー実体験室 脱出病棟Ω」を挙げた。欧米人にとってお化けは古い屋敷に出るものであり、病院に出るイメージがないとのことで、ホラーの舞台として病院はかみ合っていないものだとした。

 最後に日本におけるVRの展望について、それぞれの立場から語った。小山氏は1年前の今頃はPlayStation VRの発売で盛り上がりを見せていたが、2017年に入ってトーンダウンをしていたのは感じていると振り返る。そういったなかでお台場のVR ZONEが社内でも一定の評価が得られたことで、新宿につなげられる流れができたことはよかったとし「ロケーションベースVRが元気に見えた1年」だと総括。今後については「マジックリープ」をはじめとして多様なVRデバイスが発表されており、デバイスメーカーが力を入れている状態が見ていることから、VRゴーグルに対しての人件費や装着に関する問題が軽減され、恩恵を受けられ、伸びしろがあると語った。

 田宮氏は、今のVRデバイスや環境に“わざわざ”がつくような状態になっているため手間がかかっているものの、徐々に特別なものではないという状態になっていくと、超えられない壁を超えて領域も広がっていくものとし、デバイスメーカーの奮起に期待を寄せた。

 小川氏は、2018年について、今後発表を控えているロケーションベースとは異なるVRコンテンツに対する強い自信を改めて語り、そのローンチならび展開に多くのリソースを割いて注力していくとした。

 阪口氏は、VR センスの稼働が開始したこともあり、2018年はこれをビジネスにつなげていくことを目標として掲げた。今後VRデバイスの環境が大きく進化していくものと想定し、動向もしっかり追いかけいくとともに、海外展開の足がかりも作っていく考えを示した。

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