オープンイノベーション、AI、新規事業……「変化し続ける」セブン銀行の挑戦

日沼諭史 別井貴志 (編集部)2017年12月22日 08時00分

 コンビニエンスストアのセブン-イレブンを中心に、セブン&アイ・ホールディングスのグループ内店舗などでATMを展開するセブン銀行。2001年設立と、最も若い銀行の1つである同社が、矢継ぎ早に次々と新たなサービスを開始している。

 2017年に限って見ても、8月にソフトバンク・ペイメント・サービスの「ソフトバンクカード」との連携を開始し、10月にはLINE Payによるチャージと出金にそれぞれATMで対応。11月にはドレミングとの協業による「リアルタイム振込機能」の提供を開始するなど、腰が重いイメージのある銀行業において、他にはないスピード感あふれる事業を展開している。

 これほど積極的に動ける・動く理由はどこにあるのだろうか。セブン銀行の常務執行役員セブン・ラボ担当である松橋正明氏に話を伺った。

変化へ対応し続けることの“当たり前化”

セブン銀行の常務執行役員セブン・ラボ担当である松橋正明氏に話を伺った。 セブン銀行の常務執行役員セブン・ラボ担当である松橋正明氏に話を伺った。

――最初にLINE Payについて伺います。ATMでLINE Payのチャージと出金ができるとのことですが、この連携にはどういう理由、狙いがあるのでしょうか。

 当社ATM取引は金融機関様の入出金から始まりました。今は決済が多様化していますので、お客様の新たなニーズに対応するためです。電子マネーは現金需要に影響するという議論もありますが、電子マネーのチャージによるATMアクセスの増加が期待できます。

――ドレミングとの協業による「リアルタイム振込機能(即払い給与サービス)」の状況はいかがですか。

 11月に無事予定通り始まりました。ドレミングさんと企業さんとの契約も順調なようです。12月にはエントリーもリアルタイム振込機能を使って即払いをスタートしています。これからもご期待いただければと思います。

――オープンイノベーションによる「新世代ATMサービス開発」もスタートしますね。

 4世代目となる新世代ATMは2020年前後のリリースに向け開発をしていきます。ドレミングさんもそうでしたが、今ある機能の実装ではなく、今までにないサービスを開発するため、じっくり腰を据え、スタートアップや大企業と検討を開始しました。

――これまでセブン銀行では新しいテクノロジーや新しいサービスを、独自で、あるいは協業して積極的に展開してきました。そのモチベーションの源泉は?

 我々のスローガンは「変化対応」です。言い換えると「変化しないと滅びる」、という恐怖でもあります。この概念は日々繰り返し話されているので、それが"当たり前化"しているんです。コンビニやスーパーなどリアルな現場を持つ当社の事業は、当社が新たに提供した商品へのお客様の反応が体感しやすいんです。これが一つのモチベーションになっています。

――そのさまざまな“変化”を察知するために、具体的にどういうことをしてらっしゃいますか。

 外に出るのが一番ですかね。特にスタートアップ企業の方々など、最前線でアクティブに事業に挑戦してる方々と話すのが一番変化を感じます。セブン・ラボのメンバーだけでなく、社内のメンバーも外に出て行って活動するケースが増えました。オープンイノベーションの動きが社内に浸透し始めて、社外交流、事業化議論などをしてます。それと、経済産業省の起業家育成プログラム「始動 Next Innovator 2017」にも当社から4人参加しています。とにかくいろいろなワークショップに積極的に参加するようになりましたね。NRIのハッカソン「bit.Connect2017」に当社のチームが参加して賞をいただけたりもしました。

――ハッカソンに向けてチームも作ったんですね。

 初の試みでしたので、挑戦意欲の高いメンバーに「ちょっとやってみない?」と声をかけました。機会を作るだけでなく、ハッカソン当日のサポート、アイデアの壁打ち、外部ベンチャーキャピタルからのメンタリングの場を作り、グローバル視点での評価など全体をアクセラレートしています。

 ハッカソンでは賞をもらいました。普段褒められることの少ない、ITエンジニアメンバーにも刺激になったようです。私もエンジニアだったときに賞なんかもらったことはなかったです(笑)。マイナスの評価でなくプラス評価を得られる、いい挑戦だったと思います。

 参加したメンバーもみんな「めちゃくちゃ面白かった」と言ってくれましたので、2018年は今年のメンバーがリードして次の挑戦者を輩出するようお願いしてます。

途中で終わっても失敗じゃない。次に活かせるストックに

――オープンイノベーションのような取り組みは、特に大企業では難しいとされています。チャレンジしたい人がいても失敗を恐れてできない、とよく言われますよね。そういう失敗に対してはどうお考えですか。

 当社セブン・ラボのリーダーが大事にしている「1人が楽しく踊れば、周りも踊り始める」ということを実践してます。先頭に立って挑戦していると、共感する人が生まれてその輪が広がっていく現象の事です。新規事業も似たようなところがあり、リードとサポートが大切です。

 誰しも失敗したくないでしょうけど、失敗は経験になります。なので、やり切った結果の失敗を恐れない気持ちが大事です。失敗の原因を分析し、次に活かす。そういうポジティブな感じをみんなで持てればいいなと思いますね。

――銀行業としては後発だからこそ、できたこと、できなかったことがあったのではないでしょうか。いろいろなチャレンジや失敗も多かっただろうと思います。

 たくさんありますよ。作ったけど効果が低いものや、思ったように利用されない例など、挑戦の数に比例し、失敗もあります。

――変化という意味では、テクノロジーの進化はものすごく速い。キャッチアップするのも大変ではないでしょうか。

 情報をフックされるようにしておくのと、実際に行って試してみることですね。先日、AIをプログラミングせず使えるGroovenautsさんのワークショップに、希望者と参加しAIを使ってみることを実践しました。クラウド技術の取得やデータ分析など、常に何か試してみるというのを繰り返している感じですね。

 それと、私は社内ではアクセラレータ的な役割を担っています。そこで自分の時間を使って、能力向上の位置づけでの活動をしています。他企業のメンバーと事業創造活動をしているコミュニティで、アクセラレータとして関わっています。その経験を活かして、再び社内ビジネスをさらにアクセラレートできることにつなげています。

――そこに参加する意義とは?

 新規事業と言っても、レッドオーシャン型からブルーオーシャン型まであり、それぞれでアプローチの違いを体感する。ブルーオーシャンという難易度の高いビジネスを探索するための手法を複数実践取得するなどの効果があります。ゴールはブルーオーシャンの新規事業を作ることですね。

 ただ、頭の使い方が全然違う、ということに苦しんでいますね。既存ビジネスを長くやっていると、複雑な表現を避け、情報をシンプル化する能力は高くなります。しかし、異なる背景を持つチームの数人と認識を共通化させようとしたとき、複雑な概念を言語化するスキルが重要だとわかってきて、頭のセットを入れ替えているところなんです。

――ご自身がそこまで時間や手間をかけて参加する動機みたいなものはあるんでしょうか。

 アクセラレータとして、社内でもっと事業を作りたいからです。自身の引き出しをもっと増やして、たくさんの人を覚醒させて、よりクリエイティブな会社にしたい。そのためには自分も成長しなければならない。いくつか成果が出たからといっても、まだそこで満足はで出来ません。むしろ、ここからです。

――かっこいい(笑)

 ですかね(笑)。

AI、スマートフォン、セキュリティに向けたチャレンジ

――AIの活用についてはどのように考えていらっしゃいますか。

説明 「常識を疑って、今まで当たり前だと思ったものを再構成し成長を続ける必要性が高くなっている」と松橋氏

 最近いろんなイベントに参加して思うのは、AIを魔法の玉手箱と思って導入してみたはいいけれど、成果が出ないからすぐやめちゃう人がこんなにも多いんだな、ということですね。

 我々は新世代ATMの開発に合わせ、3年スパンでデータセットの再構成など、効果が高いものに挑戦しようとしています。

 また、需要予測は非常に難しくなってきています。当社ATM網の拡充で、同じところでお金を引出さず、必要な都度近くで使うようにお客様の行動は変わって来てます。私自身もですが..

――まさにそういったところはAIの領域ですね。設置場所だけでなく、ATMの運用においてもAIの活躍の場がありそうです。

 最近よく思うのが、常識を疑って、今まで当たり前だと思ったものを再構成し成長を続ける必要性が高くなっていると。例えば、当社は一部のATMの定期点検をやめているんです。一般的には1年に1回は定期点検をしますが、これをなくすアプローチを試しています。「点検しないと壊れるから」という常識を疑って、別のアプローチを考えています。

――金融業というと、ネットワーク越しの攻撃などセキュリティ面でターゲットにされやすいのではないかと思います。その対策は?

 当社は比較的新しいものを導入しいます。インターネットバンキングのマルウェア対策や不正アクセス対策には、IBMの「Trusteer Pinpoint」とNTTデータの「CAFIS Brain」、さらにシマンテックの多要素認証ソリューション「VIP」を導入していますし、不正口座対策としてはSCSKの「BankSavior」とエルテスの「VizKey」を利用しています。また、リスト型攻撃の対策として独自システムも構築しています。時代と手口の変化に合わせ、オープンに早く対応していくよう努力しています。

 じぶん銀行さんとの「スマホATM」も、セキュリティについてはかなり考え抜きました。従来のキャッシュカードのセキュリティを主にした考えと、ネット認証をベースにしたスマートフォン取引の考えとは大きく違います。じぶん銀行さんといろいろ議論したり、法務部門と話し合ったり、第三者評価をしました。

――ほとんどゼロからのスタートだったんですね。

 ガイドラインも何もない中で新しいものを作っていくのは、我々は元々得意なんですけど、改めてそこは大変だったなと思います。なにげなくスマートフォンでATMが使えるように見えますが、その裏にはかなり多くの議論をしました。単純にFISC(金融情報システムセンター)とかPCI(Payment Card Industry Standards)の基準を見ても作れないので、新しいものを作るときは、1社ではなくオープンイノベーションでの共創は大事だなと改めて感じましたね。

 今後どんどんスマートフォンを使ったサービスに変わっていきます。新しいことを考えるには、新たなセキュリティを考えていかなければなりません。ガイドラインが決まるまでやらないというわけにもいきませんので、チャレンジしていかなければなりませんよね。

セブン銀行の常務執行役員セブン・ラボ担当である松橋正明氏は、2018年2月27日、28日に開催されるカンファレンス「CNET Japan Live 2018 AI時代の新ビジネスコミュニケーション」で基調講演する。

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