キャリアの復権、MVNOの苦戦といった2017年の動向を踏まえ、2018年を占う上で注目すべきはどこなのか。筆者は、再び総務省の動きに大きな注目が集まると考えている。
その理由の1つは、総務省が推進してきたMVNOの競争力低下にある。これまで総務省は、既存キャリアに商習慣を改めるよう厳しい措置をとる一方、MVNOの参入を促進して事業者の数を増やすことで、市場競争を加速させる取り組みを進めてきた。だが既存キャリアの側が、過度な端末値引きをしない、長期利用者の優遇を強化するなど、総務省の要望に応えながらも顧客流出を防止する策を打ち、それがMVNOの成長を止める要因となってしまっている。
つまり現在は、総務省がこれまで取り組んできた施策が裏目に出てしまい、MVNOの競争力を強化するにしても打つ手が限られてきている状況なのだ。それだけに2018年は、総務省がMVNOを再活性化するための新たな施策を打ち出せるかどうかが、大いに注目されるところだ。
そしてもう1つの理由は、楽天が12月4日に、キャリアとして携帯電話事業へ参入することを発表したことである。先にも触れた通り、楽天はプラスワン・マーケティングの通信事業を買収し、個人向けのMVNOとしてはトップの座に躍り出た。そうしたMVNOでの実績に自信を得てか、同社は総務省が近く実施する予定の、1.7GHz帯と3.4GHz帯の追加割り当てに申請することを決めたのだ。
楽天は電波の割り当てを得た後、新会社を設立して携帯電話事業に正式参入し、2019年のサービス開始を目指すとしている。MVNOではネットワーク環境やサービスが、回線を借りるキャリアに縛られてしまうという弱みも抱えているだけに、自らインフラを敷設してネットワークを自由に扱える立場になりたいと考えたのではないだろうか。
しかし、楽天がこれから携帯電話事業に参入するとなると、ゼロからインフラを敷設する必要があるため、全国をくまなくカバーするには莫大なコストと時間がかかってしまう。楽天は2019年に2000億円、2025年に6000億円を調達するとしているが、大手3社は現在も毎年3000〜5000億円ほどのインフラ投資をして、改善に努めている。楽天がそれだけの調達資金で、ゼロベースから充実したインフラを構築できるのか、不安視する声は多い。
そのため楽天は、自社のインフラ敷設は都市部に絞り、コスト効率が悪い地方や山間部などは他社のインフラを借りるという手段を取る可能性もある。だが、国の貴重な資源でもある電波を地方で死蔵させることを総務省が認めたとなれば、多額なコストをかけて全国カバーを進めてきた既存キャリアからの反発は避けられないだろう。
携帯電話会社を増やして競争を加速し、携帯電話料金を引き下げたい総務省としては、楽天の新規参入を歓迎しているものと見られる。だが過去を振り返ると、イー・アクセスやウィルコム、そしてアイピー・モバイルといった事例があるように、“第4のキャリア”による競争促進はことごとく失敗しているのが実情だ。それだけに今回の楽天の動きを受け、総務省が電波割り当てに際してどのような判断を下すのかにも、大きな注目が集まりそうだ。
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