「脳ハッキング」で人類がAIの進化に対抗する日は来るのか - (page 3)

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2017年12月20日 07時30分

 脳の増強技術をめぐる不安に、根拠がないわけではない。2014年、神経学者のPhil Kennedy氏は自らの脳に電極を埋め込むという「脳のハッキング」を行ったが、その外科手術後、一時的に閉じ込め症候群と呼ばれる麻痺状態に陥っている。Kennedy氏は最終的に回復したが、この処置に伴うリスクを物語る顛末だった。

 感染症の恐れもある、とLebedev氏は言い、脳には、まだ十分に理解されていないために手を出せない領域もある、と付け加えている。

 そこに加わるのが、未知なるものへの恐怖心だ。脳を増強した結果、人間は本質的な部分で取り返しがつかないようなところまで変化してしまうのではないか。そこまで考えれば、人が脳の増強をこぞって求めようとしないのも、不思議ではない。

人間の新しいあり方

 こうした懸念に対して、Johnson氏はどう反応するのか。

 「みんな、何を失うと思って脅えているのか。私たちは、一生をかけて自分自身を矯正しようとしているのではないか。私は、人間であることに、ひどくフラストレーションを感じている」(Johnson氏)

 哲学者たちは昔から、人間であることの定義を突き詰め、人と動物の間に境界線を引こうと努力してきた。だが、Johnson氏のビジョンが正しいと認められ、人間の脳をチップにダウンロードできるようになったら、今度は人間と機械の間に境界線を引くことが必要になるだろう。

 筆者は、本記事のためにインタビューした人全員に、人間をどう定義するかと尋ねてみた。返ってきたのは、家族観から文化的なアイデンティティ、さらには地球上の他の生物と共進化してこの惑星を形作る一部となる過程にも及ぶ、あらゆる回答だった。

figure_5
人間の進化の次に何が来るのか問う人もいた。
提供:Print Collector/Getty Images

 Johnson氏は、この定義について独自の考えを持っている。「私なりに人間というものを定義するなら、それは、私が何にでもなれるという事実だ」。そう語る同氏がなりたいものは、同氏の説明によると、人間を超える存在ということらしい。「私は、自分の認知力が十分に機能していないと考えている。自分の偏見による限界があるし、盲点もあるからだ。そんな限界や制約は、ない方がいい。私はもっと自由になりたい」

 だが、われわれがどうにかその限界を破り、もっと安眠して長生きし、幸福の絶頂や喜びや健康を味わう方法を見つけ出せたとしたら、Lebedev氏が言う、脳の増強に関する「倫理的なリスク」に直面するようになるかもしれない。脳の中の快感中枢を刺激するために、繰り返しレバーを押す実験用ラットに成り下がるのはごめんだ。

 危険なのは、脳の増強が「実際に万能薬のように売られかねないが、そうではない」ことだとCasanova氏は指摘している。

 Lebedev氏によると、本当に世界の終末の日が来るとすれば、それは人間が機械と融合し始め、機械が人間の意識を持つように、または真似るようになるにつれて、人間と機械の間の境界線が曖昧になるときだという。

 「人間社会が、ゾンビの共同体に変わってしまうこともありえるだろう。幸い、まだ今のところ、それは問題になっていない」。Lebedev氏はそう続けている。

 筆者としては、人の肉体、精神、感情に対して一切のダメージをもたらさずに脳の増強が可能だと、Johnson氏とMusk氏が証明してくれるまで、進んで実験体になるのは遠慮したい。チップを手に埋め込んで、クールな動画を撮影できるのはけっこうなことだが、脳に神経外科医のメスを入れさせる気にはなれない。まだ、今のところは。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

企画広告一覧

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]