中高生がアップルの「Swift」でアプリ制作--海城中高でプログラミング講座

 2020年の小学校でのプログラミング教育の必修化を受けて、小学校のみならず独自でプログラミング教育に取り組む学校が増えている。東京都新宿区にある中高一貫の男子校である海城中学高等学校もその1つだ。

 進学校である同校では、今後のICT化社会を見据えて、2016年にICT教育部を発足。すべての教室にホワイトボードとプロジェクタ、Apple TVを設置し、Wi-Fi環境を整備するなどして、ICTを活用した授業を実施するための土台を作った。また2017年度から試験的に、中学3年生向けにiPadを1人1台導入。日々の授業や生徒たちの情報収集(フィルタリング適用済み)などに活用しているという。


海城中学高等学校のプログラミング講座の様子

 そんな同校が、2017年度から新たに開始したのが「KSプロジェクト」という特別講座。通常授業の枠に収まりきらない、生徒たちの“つき抜けた”学習意欲や、“とがった”興味や関心に応える場として立ち上げた、選択制の課外講座だ。

 KSプロジェクトには、自然科学と人文科学の両方の視点から地域を考える「総合フィールド演習」や「模擬裁判」など、幅広い講座が用意されている。その1つとして4月から、通信教育などを展開するZ会の協力のもと「プログラミング講座」を実施している。この講座は1学期(4〜7月)に実施された「初心者編」と、2学期(9〜12月)に実施された「発展編」から構成されている。

 「初心者編」は、週に1回80分の講座が全7回にわたり実施された。中学2年から高校1年の生徒を対象に募集したところ、定員40名を大きく超える100名以上の応募があり、抽選により選ばれた40名が受講した。講座で生徒たちは、アップルのプログラミング言語である「Swift」のコードの書き方を学べるiPad用アプリ「Swift Playgrounds」を通じてパズル形式の課題を解いたり、アルゴリズムの基本構造であるForループやWhileループなどの考え方を身につけたりした。また、終盤にはSwift Playgroundsを使って自身の作品を作り発表した。


生徒たちが開発したアプリを自らプレゼンテーションした

 「発展編」は、週に1回80分の講座が全8回にわたり実施された。初心者編を修了した者を対象に募集し、iOSアプリ開発を希望する16名が受講した。Mac PCでアップルのソフトウェア総合開発環境「Xcode」とSwiftを使い、より高度なアプリの開発に臨んだ。生徒たちは、アプリの仕様や画面の動きなどについて学び、最後の約2週間をかけてアプリを開発。11月28日に成果報告会を開いた。

 報告会では、中学3年~高校1年の生徒たちが、個人またはチームで開発したアプリの特徴やこだわりをプレゼンテーションした。たとえば、複数人で遊べる「人狼ゲーム」や、英単語を読んだ数が増えるとイラストのキャラクターが進化していく「英語リーディングアプリ」、学園ものをテーマにした「すごろくゲーム」、先生のテストの採点を楽にする「点数カウンター」などが披露された。


英単語を読んだ数を記録できる「英語リーディング」アプリ

「四目並べ」が遊べるゲームアプリ

先生のテストの採点を楽にする「点数カウンター」

 特に完成度が高かったのが、中学3年の生徒が開発した「オセロゲーム」。2人で対戦することができ、1人が石を置くと自動的にターンが切り替わる。また、石が埋まると勝敗結果が表示され、次の試合へと移る。一般的なオセロゲームと遜色のない完成度だったことから、Z会から最も優れたアプリとして特別賞が贈られた。

 このオセロゲームを開発した生徒は、自身でスマートフォンはもっていないそうだが、この講座がきっかけとなって新たに購入した自宅のMac PCを使って、講座以外の時間にも楽しみながらアプリ開発を続けていたという。他の生徒より開発時間が長かったこともあり、より完成度を高めることができたと振り返る。現在は対人プレイしかできないため、今後は1人プレイができるようにCPUも実装したいと展望を語った。


特に完成度が高かった「オセロゲーム」アプリ

 そのほかのチームのアプリも、ユニークなアイデアから生まれた作品ばかりだったが、実現するためには高度な技術が必要で、制作期間も2週間という短期間だったこともあり、学業と並行して完成させることが難しかったチームもあった。生徒たちは「途中でバグが見つかってやり直した」「参加回数が足りなかった」など、反省点や課題などをあわせて語った。

 講座で生徒たちにアドバイスをしていたZ会の講師は、「2週間以内に完成させることを目指した人もいれば、野望を持って(高い目標に)取り組んだ人もいた。短期間という制約のある中で、計画にむけて熱意を持って取り組んでいたことに感動した」と評価した。

 また、同校のICT教育部 部長で理科教諭の平田敬史氏は、「中高生でこんな経験をしている人はまだ少ない。でも、やってみなければ分からないこともある。アプリストアにあるアプリを作ることは本当に難しいということがわかっただけでも大きな成果だと思う。アプリを完成させることも大事だが、その過程を通して主体的に取り組むことと、プログラミングの考え方を学ぶことのほうがより大切だ」と生徒たちにメッセージを送った。


発表後は、生徒たちがお互いの作品を評価しあった

“必修化”の小学生世代に負けない力を

 成果報告会後に、ICT教育部の平田氏にプログラミング講座の感想や、生徒たちの日々の取り組み方について聞いた。そもそも、なぜプログラミング講座がこれほど人気だったのかという疑問について、平田氏は「ゲームなどを自分で作ってみたいという動機もあるが、将来の仕事に役立てたいという生徒も少なくない」と説明。社会に出た時に、プログラミング教育が必修化される小学生世代に遅れを取らないように、今のうちから学んでいる生徒もいるそうだ。

 今回の参加者は、ほとんどがPCを使い慣れていない生徒だったため、Z会や教員のサポートのもと、PCやソフトの操作に徐々に慣れていったという。アプリ開発については「どの生徒も主体的に楽しみながら学んでいた」と振り返った。「(中高生がもつプログラミングのイメージについて)大人が考えているほどハードルは高くないと感じる。生徒たちは考えること自体を楽しんでいるし、エラーにぶつかってもそれをいかにして解消するかというところに面白さを見出していた。また、分からないことがあればすぐに検索もできるので、環境は整っている」(平田氏)。


海城中学高等学校 ICT教育部 部長で理科教諭の平田敬史氏

 平田氏は続けて、「当初はもう少し簡単なアプリを制作することを想定していたが、担当者の想像を遙かに超えて高い目標を設定しため、未完成だったチームもあった。もう少しレールを敷いて完成できるような課題にした方が良かったかもしれないが、成果物よりもプロセスの方が学ぶことは多いと考え、あえて自由に制作させた。発表会前には連日多くの生徒が自主的に作業していたが、問題にぶつかっても楽しそうに取り組んでいた。主体的に学ぶことの大切さを、改めて実感した」と語り、3学期にはさらにアプリ制作に取り組める講座を実施していきたいと展望を述べた。

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