難易度の壁を超えて誕生した不動産テック「IESHIL CONNECT」の狙い - (page 2)

正確な災害リスクを届けることで、物件選択の背中を押す

リブセンス 不動産ユニット チームリーダー 竹馬力氏
リブセンス 不動産ユニット チームリーダー 竹馬力氏

 角田氏の説明を受けて、実際にIESHIL CONNECTでどのような災害リスク診断ができるのかについて、リブセンスの竹馬氏が解説した。

 竹馬氏によると、IESHIL CONNECTではアジア航測のデータに基づき、リブセンス独自の算出ロジックで物件の災害リスクを5段階でスコアリングするという。物件ごとに地震、洪水、液状化現象などのリスクを評価し、それを地図上にプロットすることで、災害リスクが高い地域、低い地域の特徴が把握できるのだ。「複数の災害リスクを掛け合わせて物件が持っている情報と組み合わせて俯瞰的に分析することによって、新たな知見を得ることができる。今後治安や教育などといった情報も分析軸に盛り込むことで、さらに可能性が広がるのではないか」(竹馬氏)。

IESHIL CONNECTでは災害リスクを5段階で評価する
IESHIL CONNECTでは災害リスクを5段階で評価する
洪水リスクの高い物件をプロットした地図。沿岸部や河川敷エリアに集中している
洪水リスクの高い物件をプロットした地図。沿岸部や河川敷エリアに集中している

 そして、IESHIL CONNECTを開発した狙いについて、稲垣氏は多角的な情報データに基づいて物件探しをしている生活者に情報の透明性を担保するというIESHILの基本的な姿勢を述べた上で、「生活者にとって、街や住まいを選ぶ上で重要な価値を持っているのは、住環境に関する情報だが、実際にはまだまだ情報が足りていない」という課題を挙げ、なかでも災害リスクに関する正確な情報を提供することが生活者の物件選択に大きな影響を与えるという考えを示した。

 「東日本大震災や熊本地震、広島や九州の土砂災害など自然災害は激しさを増しており、首都直下型地震の被害想定は死者2万3000人、家屋の全壊・消失は61万棟(東京と神奈川の全住戸の合計に相当)に及ぶとされている。もはや“想定外”では済まされない状況であり、生活者は従来の予測や基準に対する不安を抱いているのではないか。加えて、自分自身が暮らす住環境に関する正しい情報を得ることができないという不安も大きい」(稲垣氏)。

 稲垣氏によると、こうした生活者の不安を受けて行政も不動産売買時の重要事項説明項目に「土砂災害警戒地域」「造成宅地防災地域」「津波警戒地域」といった災害リスクに関する指定地域の説明を加えるように義務化を進めているそうなのだが、「実際には災害リスク調査やデータの整備が追いついておらず、説明義務が有名無実化している」と指摘する。

 「住まい選びでは、多くの人が利便性を最も重視する傾向にあるが、情報の重要度では安全性は利便性と同じくらい重要視されている。資産価値に大きな影響力をもつ利便性だけでなく、安全性に関する情報についても不動産のプロならではの視点で提供されることが大事ではないか」(稲垣氏)。

住まい選びにとって、安全性は利便性と同じくらい重視される
住まい選びにとって、安全性は利便性と同じくらい重視される

住環境情報の効率的な収集・活用を不動産営業の新たな武器に

リブセンス 不動産ユニット プロダクトリーダー 稲垣景子氏
リブセンス 不動産ユニット プロダクトリーダー 稲垣景子氏

 加えて稲垣氏は、不動産会社にとっての住環境情報の価値について説明。稲垣氏は不動産会社の担当者が住環境に関する現在の実態について、散在する情報をさまざまな情報ソースから個別に閲覧・収集していくという手間とコストが膨大に掛かる状況を指摘。加えて、営業ノルマや成果インセンティブを追う営業担当者にとって、ネガティブな情報の収集は後回しにせざるを得ない状況が生まれているとも説明した。

 「不動産という高額な商品をノルマのもとで販売しなければならず、また幅広く大量の業務に追われている営業担当者の実態は、消費者にフラットで透明性の高い情報を提供しづらくしてしまう。提供できる価値を圧迫する課題を生み出している」(稲垣氏)。

  実際、稲垣氏が不動産会社にインタビューしたところ、若手営業担当者からは「情報を調べきれない」「誤った情報を提供するのではと不安」「どのような情報を伝えるべきかわからない」「忙しくて聞かれたことを答えるので精一杯」といった不安の声を多く聞いたという。しかし一方でリーダー層の営業担当者からは「信頼獲得に繋がる武器になる情報が欲しい」「プロならではの情報が提供できなければ」「他社に差別化できる情報が必要」「情報収集の効率を上げたい」といった、住環境情報の活用に積極的な意見が聞かれているという。

 「こうした現場の生の声を聞いて、情報収集に関する負担を軽減していきたいという思いはますます強くなった。武器になるのであれば、必要な情報を現場に届けることで不動産ビジネスをサポートしていきたいと強く感じた」(稲垣氏)。

高いノルマと情報収集の難易度によって、価値のある情報を届けることができない
高いノルマと情報収集の難易度によって、価値のある情報を届けることができない
住環境情報を効率よく収集して営業活動の武器にしたいという声は少なくない
住環境情報を効率よく収集して営業活動の武器にしたいという声は少なくない

 そして稲垣氏は、住環境情報の流通に関する課題として、(1)収集コストが高く簡単ではないために、(2)顧客に提供する優先順位が低下し、(3)顧客が不動産会社に情報を求めることを諦めてしまうために、(4)住環境情報に対するニーズが顕在化せずにオープンデータの情報集約が進まない、という悪循環が生まれていることを指摘。

 その上で稲垣氏は、IESHIL CONNECTの狙いとして「この悪循環を根本から断ち切っていくためには、難易度の壁を超えてでも情報の提供方法そのものを変えていく必要がある。情報を集約し、住環境情報を武器にしたいという営業担当者にとって利便性の高いサービスを作りたいという思いでIESHIL CONNECTを開発した」と語った。

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