社員の定着率アップから新規事業立ち上げまで--今求められる人事の仕事とは

 オフィスや住居など“暮らし”にまつわる事業を手がける事業者と、暮らしの課題をテクノロジで解決しようとしている事業者が集った「LIVINGTECH Conference2017」が9月20日に開催された。

 チームビルディングをテーマにした「事業開発のための組織・人材開発~いかに社内の壁を乗り越えるか~」では、三井不動産ベンチャー共創事業部事業グループ主事31VENTUREアクセラレーターの光村圭一郎氏、LIFULL執行役員人事本部長の羽田幸広氏、サイバーエージェント取締役人事統括の曽山哲人氏が登壇。リノベる代表取締役の山下智弘氏がモデレータを務め、他社とのアライアンスから、新規事業の立ち上げ方、新卒、中途採用まで、多くの企業が抱える人事と仕事のやり方について話した。


テーマは「事業開発のための組織・人材開発」

新規事業の立ち上げ方はさまざま、サポート体制の違いとは

 三井不動産は1941年設立の大手不動産会社、LIFULLは4月に「ネクスト」から社名を改め、今回のLIVINGTECH Conference2017の会場にもなったリノベーションオフィスを半蔵門に構えている。サイバーエージェントは「アメーバブログ」や「AbemaTV」など数多くの事業を手がけるインターネット企業。リノベるは2010年に設立以来、ユーザー、不動産会社、施工会社、設計会社をつなぐリノベーションのプラットフォームを提供している。


三井不動産ベンチャー共創事業部事業グループ主事31VENTUREアクセラレーターの光村圭一郎氏

 スタートアップとともに新規事業を数多く手がける三井不動産の光村氏は「大手企業はゼロから市場を生み出すことや新しいニーズを開拓することが苦手。それが出来るスタートアップと組むというのが理想的なパターン」と大手とスタートアップのアライアンスのあり方について話す。

 「ただ、新しい事業を立ち上げていく中には、先方にどこまで仕事を渡したほうがいいのか、自分たちがどこまでリードしたらいいのか、などさまざまな問題が出てくる。そうした大変な仕事を一つ一つ解きほぐしながら、個別の最適解を探していくことが大事。多分これは汎用化できない」と現実を説明した。


LIFULL執行役員人事本部長の羽田幸広氏

 羽田氏は「不動産領域だけではなく、教育や介護などいろいろな新規事業をやりたいという思いを実現するチャンスを提供できる会社。挑戦できない言い訳ができない会社を作ろうと思っている」とLIFULL内での新規事業の立ち上げについて話す。

 新規事業の提案は年間130~150件程度出てきており、そのうちの数件を事業化しているという。社長になるのはその事業の提案者。「入社3年目のスタッフでも社長にする。新規事業責任者などではなく、子会社を作る」と立ち上げ方法を話した。

 提案者は社長に就任するほか、法人登記からバックオフィスまですべてを自分の裁量でやっていくとのこと。これは「井上(LIFULL代表取締役社長の井上高志氏)が会社設立した時と同じ状況を作っていくため。こうすることで、社員雇用やコストカットなど、あらゆることに意識が届き、潜在能力が開花する」(羽田氏)と説明する。

 一方、「3つのサポート体制を用意して成功に導く」というサイバーエージェントは、同社の取締役の1人を子会社の取締役に就任させる、人事、経理、法務などの機能を担うサポートチームを作る、子会社の社長同士のミーティングを月1回開くといったサポート体制を敷く。

 曽山氏は「法人登記などもサポートチームが担当する。ただし決済は社長にしてもらう。疑問や相談は受け付けるが、教えるのは選択肢まで。最終決断は自分でしてもらう」と言う。サイバーエージェントでは、多いと年間1000件程度の新規事業提案があるのこと。以前は提案者を社長にしていたが、現在は必ずしも提案者が社長になるわけではないという。「役員と社員を一緒にして新規事業を作ることで、上手くいくようになってきた」と要因を説明した。

 人選のポイントはサイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏いわく「言うことは壮大、やることは愚直」とのこと。「このキーワードが出てきてから人選がしやすくなった。大きなことを言えるか、会社を動かすために愚直にやれるかはセット。これによって子会社の成功率が上がっている」(曽山氏)という。

 羽田氏も「市場が良かったというのもあるが、子会社の成功要因は社長。ビジョンを掲げられると、足下でしっかり結果を出せるかの両方をもっている人が比較的うまくいっている」ことを明かした。

 山下氏は「リアリティのあるいい話。新規事業の立ち上げも、スタートアップと大企業とのアライアンスも、何回も繰り返し失敗して正解を見つけていく」とコメントした。

社員同士を仲良くさせる事によって起こる効能


サイバーエージェント取締役人事統括の曽山哲人氏

 各社の人事採用についてもディスカッションが交わされた。サイバーエージェントの曽山氏とLIFULLの羽田氏は「社員同士を仲良くさせることが大事」と口をそろえる。

 曽山氏は「定着率が低かった時期があり、その時に取り組んだのが社員同士を仲良くさせること。部署での飲み会であれば予算を設け、飲み会を開いてもっとお互い話してもらうことに投資した。結局仕事だけの関係だとドライになってしまうが、趣味や地元など話すことで共通項が見つかると、相手に対する親近感が高まる。そうした感情を持つと転職に対するハードルが上がる。現在の仲間といる楽しい状態を本人に自覚してもらうこと、その場作りをすることが必要。これはうまくいった」と話す。

 LIFULLではチーム作りをする時に、「まず仲良くなってなんでも言い合える関係を作った上で、ビジョンや戦略の話をしていく。例えば難しい話をしたときに『どういう意味なんですか』って聞きにくい場合がある。そういう不安を関係性で取り除き、心理的安全性を高めることで、働きやすくしている。そのために予算もつけ、飲み会でも部活でもなんでもいいから、チームで遊びに行けるようなサポートしている」とコメント。さらに「事業部長から新卒入社のスタッフまで、意見を言い合える関係になることが大事」と重要性を説いた。

 離職率は低いという三井不動産の光村氏は「社内の飲み会は多いが、もしかして内向きになっているのかも。新卒で入社した人が一人前になるまでには5~6年かかる。そういう時間軸で人を育てると、仕事が面白くなってきたタイミングで転職するかといったらそうではない。結婚するなど保守的にならざるをえない個人的事情もある」と現状を話した。


リノベる代表取締役の山下智弘氏

 サイバーエージェントでは「ナナメ上のメンター制度」、通称「ナナメン」を採用する。山下氏がそれについて問いかけると、曽山氏は「“ナナメ”という言葉が流通していて、実際のやり方は部署におまかせ。ある部署だと入社して半年後からナナメンをつけたり、指名性にしたりしている。元々は内定者のフォローのために作った仕組みで、基本的にはランチに行くことをお願いしている」とのこと。

 同様のメンター制度をライフルでも採用しており、「別の部署の同じ職種の人を斜めにつないでいる」(羽田氏)という。

 ディスカッションは採用にも及んだ。サイバーエージェントでは、インターンシップを重視しており「内定者の80%が入社前に社内での仕事を経験している。ただ来れない人もいるので、絶対ではなく『おすすめしている』程度。ただ現状を見てもらうことがミスマッチが減る一番の要因。採用基準は『素直でいい人』の1点だけ(笑)」とした。

 中途採用については、サイバーでは社員による紹介を重視しているという。「社員からの紹介はどんどんお願いしている。社員がおすすめしたい会社にしないといけない」(曽山氏)と、リファラル採用のポイントを話した。

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