日本マイクロソフトは9月1日、同社のパートナー企業の最新事例やデモンストレーションを披露するイベント「Microsoft Japan Partner Conference 2017 Tokyo」を開催。基調講演では同社代表取締役社長の平野拓也氏などが登壇し、新年度の注力ポイントやパートナー施策の強化などを説明した。
現在、Microsoftは2017年度法人向けクラウド事業の売上高が189億ドルに達している。また、2017年度第4四半期は前年度と比較して「Microsoft Azure」が97%、「Office 365」が43%、「Dynamics 365」が74%のプラス成長を実現している。「AI(人工知能)やMR(複合現実)、働き方改革という追い風が深く影響した年」と、平野氏は前年期を振り返った。
平野氏は、Microsoftが8月30日(現地時間)に発表したCortanaとAmazon Alexaとの相互連携についても触れ、「AIエージェント同士が会話し、顧客体験を大きく高める」と、同社が掲げる「インテリジェントクラウド&インテリジェントエッジ」の典型例として紹介した。なお、インテリジェントクラウドは、文字どおりクラウド側やエッジ(端)側に分析など知的な役割を備え、AIの処理能力を最大限引き出すための手法もしくは構想を指す。
ビジネスチャンスについても、「Windows 95が登場した時代の市場規模は1400億円だが、クライアント+サーバが中心となる2005年には1兆4400億円に拡大した」(平野氏)と市場規模の拡大を強調。モバイル+クラウド時代は14兆4000億円、そして現在のデジタルトランスフォーメーション時代は26兆円までの拡大を見込んでいる。さらに日本マイクロソフトは、Microsoft Azureの3桁成長を2020年まで維持し、中堅中小企業にOffice 365を訴求することで倍以上の導入件数を目指す。
日本マイクロソフトは2018年度の注力分野として、「働き方改革」「デバイスモダナイゼーション」「インダストリーイノベーション」の3つと、これらを支えるセキュリティを重視していることを明らかにしている。すでに同社は就業時間の制限やコアタイムを廃止し、社内も個人の席を決めないフリーアドレス化を実践しているが、「働き方改革の第2章として『いつでもどこでも』から『生産性を高める』に軸足を置き換え、IT技術にオフィス環境を含めた提案にエネルギーを割く」(平野氏)と説明。これは、先日発表した日本マイクロソフトとスチールケースの協業も大きく影響しているのだろう。このほかにも、「MyAnalytics」や「Microsoft Teams」「Microsoft 365」といったトピックを紹介した。
IT技術を用いたデバイスの刷新を指すデバイスモダナイゼーションについては、2017年秋のWindows 10 Fall Creators Updateリリースや、Windows 10 S搭載モデルの発表、Surface Pro LTEモデルのリリースなどを予定していることを明らかにした。また、Mixed Realityパートナープログラムを国内で開始することも発表。Microsoftでトレーニングを受講し、MR市場を拡大するプロフェッショナルを目指すプログラムだが、すでに博報堂、wise、ネクストスケープの3社が国内認定パートナーに認定されている。
興味深いのは、Windows 7およびOffice 2010のサポート終了への対応である。「不用な特需を生まない施策」(平野氏)として、大手企業なら移行検証、中堅中小企業なら乗り換え相談など顧客区分によって異なる施策を実施。2017年1月から公共エリアでのメッセージング展開を予定しつつ、「パートナー企業と協力してキャンペーンを行う」(平野氏)と施策概要を説明した。
インダストリーイノベーションは、「金融」「流通&サービス」「製造」「政府&自治体」「教育」などへの注力を意味するが、日本マイクロソフトでは2018年度から業種ごとのチームを結成して取り組んでいる。また、WRC(FIA世界ラリー選手権)に出場するTOYOTA GAZOO Racingのテクノロジパートナーであることも改めてアピールした。
発表自体は2016年9月にしているが、今回はWRCカー「YARiS」のメンテナンスをMicrosoft HoloLensで行うデモンストレーションを披露し、タイヤやA/Fセンサなど各所のメンテナンスが可能になることをアピール。デモンストレーションを担当した日本マイクロソフト 業務執行役員 エバンジェリストの西脇資哲氏は、「マニュアルや工具で手が塞がらず、音声ガイドもヘッドフォン経由で確認できる」と利便性を強調した。なお、MRアプリケーションはYAMAGATA、ミンクス、サイバネットシステムが開発している。
日本マイクロソフトは市場拡大のため、野村総合研究所およびFIXERとともに「金融デジタルイノベーション・コンソーシアム」を9月末に、三井情報およびリクルートキャリアとともに「HR Techコミュニティ」と11月に発足することを発表。すでにIoTや深層学習、インターネットセキュリティといった分野でコミュニティを立ち上げてきた同社だが、さらなる拡充を目指していく。平野氏は「パートナーとともに事例を発表し、市場を盛り上げて行きたい」と抱負を語っていた。
また、これまで8つほどに散在してきたパートナー系部署を1つにまとめたパートナー事業本部を設立し、責任者には同社執行役員 常務 パートナー事業本部長の高橋美波氏が就任する。
高橋氏は事業本部の役割として、Microsoftとパートナーの技術を生かした開発や戦略立案を行う「Build-with」、パートナーのサービスを世の中に発表して新規案件を開拓する「Go-to-Market」、一般消費者の需要をピックアップしてパートナーにフィードバックする「Sell-with」の3本柱で取り組むと語った。
また、「Partner Success for Japan」も今回新たに発表。「志を共有できるパートナーと連携し、手厚く支援するプログラム」(高橋氏)として、最新技術動向の情報共有やマーケティング支援をしていく。プログラム自体はMicrosoftの枠組みだが、日本独自の取り組みとして「国内の商習慣に合わせて、パートナーとの関係性などを重視」(高橋氏)すると説明した。
本イベントでは、例年パートナー企業の導入事例を紹介する時間を設けているが、今回はその中からエイベックス・グループ・ホールディングスの事例を紹介したい。同社グループ執行役員 グループ戦略室長の加藤信介氏によれば、同社は「エンターテイメント×テクノロジ」を経営理念と同じくらい強く意識しており、Microsoft Cognitive Serviceを使ってライブ来場者の表情から感情を数値化する実証実験を2017年8月に行ったという。
ライブ会場や物販コーナーに設置したカメラで来場者の顔を検知して、ライブ中の盛り上がりや演奏中の楽曲によって、怒り・軽蔑・嫌悪感・恐怖・喜びといった感情との関連性を分析し、数値化した。収集データはPower BIを使って演奏開始時など場面に応じて来場者の興奮度も可視化し、アーティスト側は自身のパフォーマンスや戦略性を見直すことが可能になり、企業側はセットリストへの反応など販売面での数値化が可能になる。「この文脈で未来のエンターテイメントを作りたい」(加藤氏)と述べつつ、同社はライブ運営事業の付加価値を高めるとしている。
改めてMicrosoftのAI系サービスが現場に浸透し始め、新たなビジネスチャンスが生まる様子を目にするイベントだった。
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