オフィス環境に見る企業価値の向上--CRE戦略とWeWorkの意外な共通点 - (page 2)

赤木正幸(リマールエステート)2017年08月28日 12時36分

創造的なオフィスは、多くの時間を費やしてもよいと感じるスペース

 続いて、不動産専門家とIT専門家のディスカッションを実施。参加者が投げかけた質問に対し、百嶋氏や他参加者が回答する形で進行した。

Q:CREマネジメントの一元化ツールには、どのようなベンダーがあるか? (伊藤氏)

A: プロパティデータバンクの「@プロパティ」、三菱地所リアルエステートサービスの「CRE@M」、オービックの「OBIC7」などが有名である。ビジネスモデルとしては、システム使用料のみで収益を得る専業モデルと関連不動産取引やコンサルティングを含めて収益を得る兼営モデルがあると思われる。(百嶋氏、赤木)

Q:CRE戦略の成果は数値で把握できるか? (小山氏、茂木氏)

A: CREは事業に供して初めて価値を生み出すシェアードサービス型の経営資源であるため、事業活動に継続利用している限り、CRE単体の利益貢献を切り出して評価することは本来非常に困難。しかし、売却や賃貸用への転用といった出口戦略による利益貢献に加え、ファシリティコストなど不動産コストの削減による利益貢献は例外的に把握しやすい。そのため日本企業では、目先の利益追求を優先する経営の短期志向(ショートターミズム)の問題と相まって、どうしても数値化できて見えやすいコスト削減にCREへの意識が向かってしまう傾向が強いように思われる。

 クリエイティブオフィスの構築・運用による最終的なアウトカムの把握は困難だが、海外先進企業では、オフィス環境に関する従業員へのアンケート等により、中間的アウトカムとも言える従業員満足度を定期的に把握し、世界の拠点間でベンチマークし、数値の悪い施設にCRE戦略でテコ入れすることを日常的に行っている。しかし日本企業では、オフィス移転時にアンケート調査する程度のため、CREが従業員満足度の向上と関連付けられることがまだ少ないように思われる。(百嶋氏)

Q:従業員満足度やリラックス度は、ウェアラブルデバイスやIoT等で把握できるか? (藤田氏)

A: 日立製作所が、人に装着する名札型ウエアラブルセンサを用いた幸福感(ハピネス)を計測する技術を開発している。幸福感が高い人々の集団では身体活動に特徴的なパターンがあり、さまざまな職場で計測した幸福感が人々の集団の生産性と相関することが実証されている。これまで定性的にしか理解できなかった人間や社会の活動を定量化・制御する道を切り開き、知識労働やサービス業務の生産性を飛躍的に向上する可能性を秘めている。(百嶋氏)

Q:CRE戦略の失敗事例は?失敗要因の分析こそ重要な意味をもつのでは?(尹氏)

A: バックオフィス業務であるCRE戦略は、ニュースリリースなどに掲載されることが非常に少なく、実態を捉えにくい。そのためCRE戦略を導入し、それが失敗に終わった事例を分析することは極めて難しい。直接の回答にはならないが、大手総合スーパー(GMS)では、店舗投資を上回るペースで土地を取得すると、土地の過剰投資につながり、ひいては財務体質の大幅な悪化や経営破綻に陥りかねない。

 ダイエーが2004年に産業再生機構に支援を要請した事例や、マイカルが2001年に会社更生法適用を申請した事例が、このケースに当てはまると考えられる。私が考案した「建物の土地装備率」(貸借対照表上の「土地÷建物・構築物(店舗建屋等)」で算出する指標)を見ると、店舗用地の所有と賃借の相対感をとらえられ、例えば店舗建物を自社所有する場合、土地取得ペースが店舗投資のペースを上回れば土地装備率は上昇し、借地での店舗投資が高まれば低下することになる。バランスシート上の事後的な数値ではあるが、この指標を企業間で時系列に比較し、財務体質を表わす自己資本比率の推移と併せて考察すれば、企業の土地投資が行き過ぎていたか否かを大雑把にとらえられる。

 店舗用地の投資や取得・賃借の選択に関わる意思決定は、企業財務とのバランスの下でなされることが不可欠だが、これはCRE戦略を実践することにほかならない。大手スーパーの事例からわかるように、CRE戦略には企業財務面を通じて企業の命運を左右するような側面もあり、経営の全体戦略の中で決して軽視はできない。(百嶋氏)

Q:CRE戦略におけるワークプレイスの重要性はWeWorkの人気要因と同じでは?(伊藤氏、赤木)

A: 創造的で優秀な若手人材を中心に、これまでのワークライフバランスの考え方ではなく、ワークライフ一体化の考え方が重要になってきているのではないだろうか。創造的で優れたオフィスは、創造的な人材が多くの時間を費やしてもよいと感じる心地良い快適なスペース。それがCREの価値を真正面から捉え、経営者が快適なオフィス環境の重要性を認識することとも一致する。

 創造的なオフィスの主要な要素は、コラボレーションできるコミュニケーションスペースの効果的な配置と集中スペースの設置など多様性を確保するための工夫。これらの要素は、WeWorkがBIM(Building Information Modeling)によって3次元モデルを用いて戦略的に設計しているものと一致する。(百嶋氏、赤木)

CRE戦略とWeWorkに見る共通点

  海外先進企業ではすでに実践され、日本では約10年前から言葉が広まり始めたCRE戦略と、世界的に有名な不動産テック企業のWeWorkが、クリエイティブオフィスの構築・運用という共通点で結びついていた。IoTによってリアルタイム情報の収集、分析、活用が実現し、従業員満足度やリラックス度を把握し、BIMや環境シミュレーションによって戦略的にクリエイティブオフィスやクリエイティブ不動産を実現できる日も近い。CRE戦略以外の分野においても、不動産の現状課題を不動産テックで解決できる分野は相当あると考えられる。

 次回は、投資額が小口でできる「不動産小口化」の問題と、マンションの建替えについて、旭化成不動産レジデンス マンション建替え研究所主任研究員の大木祐悟氏が登場し、不動産×ITディスカッションを開催する。

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