だが、このような後付けのキットや、自動車メーカー数社からしか出ていない不確実な検出アルゴリズムに頼らなければならないのは、なぜだろうか。
- 話はさほど単純ではない。米国では1990年代の終わり頃、高温になるトランクで遊んでいた子どもが死亡する事故が何例かあり、トランク内に開放装置を取り付け、その開放装置に蓄光体を用いることが義務化された。しかし、このような対策は一定以上の年齢で、危険から脱出しなければならないと理解できる子どもにしか通用しない。
- 子どもが今のような危険にさらされるようになったのはなぜか。理由の一つは、助手席のエアバッグが強力すぎて、子どもを助手席に座らせることが危険だと判明したためだ。米国では後部座席にチャイルドシートを設置することが義務化された。エアバッグで危険な目に遭うことはなくなったが、置き去りにされる危険が増えてしまった。
- 安全性の向上を優先することには、冷酷な計算が伴う。米サンノゼ州立大学特任教員のJan Null氏によると、高温になる車内に取り残された子どもが死亡する事故は、米国で年間平均37件起きているという。だが、新しい技術で解決を目指しているような不注意が原因だったのは、そのうち約半数にすぎない。痛ましい事故には違いないが、2016年の自動車死亡事故に占める比率で言えば、0.05%にとどまる。
- リスクマネジメントが重視されている。自動車メーカーは、万全ではない安全対策技術を新たに搭載することを忌避する。安全対策技術が、100%常に機能するとは限らない、あるいは100%常にドライバーに理解されるとは限らないとなると、製造物責任をめぐって訴えを起こされる可能性があるからだ。筆者の知る限り、車内に子どもが置き去りにされたケースで、自動車メーカーが責任を問われた事例はない。
- 新技術は新型車に搭載される。新型車でどんな技術が義務化されても、若い親の手元には届かない、と米国自動車工業会(AAM)は懸念する。こうした技術を最も必要とする層にもかかわらず、経済的に余裕がないため、旧型車を使っている可能性が高いからだ。AAMが提唱しているのは、指導の徹底と、スマートフォンも後部座席に置いておくといった単純な対策である。スマートフォンなら忘れることはない、という発想で、残念ながら当たっていそうだ。
それでも、この問題の解決に必要な要素は固まりつつある。センサやGPS、ネット接続、さらには車内カメラまで急速に普及しつつあり、さまざまな役立つサービスが提供されるようになれば、子どもやペットを検知するスマートシステムも装備されるようになるだろう。しかし、それまでは、周りが気付くような警告音や万一のときに窓ガラスを壊せるタイヤレバーがせいぜいの策なのかもしれない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。