CNET Japanの読者なら、iFixitをご存じだろう。スマートフォンやPC、ゲーム機、カメラなど、さまざまなガジェットを片っ端から分解し、そのようすをレポートで公表するという、ユニークな活動を展開する米国企業だ。
分解といっても、ただ単に面白がってバラバラにするわけではない。発売されたばかりのスマートフォンをミキサーに入れて壊すような、開発や製造に携わった人々に対して無礼なことなどしない。あくまでも、修理の可能性を探ることが目的だ。その丁寧な分解作業からは、ガジェットへの愛が感じられる。
そんな魅力的な企業は、どんなポリシーで運営されているのだろう。2003年に同社を創業して最高経営責任者(CEO)を務めるKyle Wiens氏が7月上旬に来日した際、CNET Japanは単独インタビューする機会が得られた。そこで、分解と修理にかける思いを伺った。
ガジェット好きなら共感してもらえるはずだ。何かを分解するのは楽しい。子どものころ、まだ使えるぜんまい式の目覚まし時計を分解し、壊して怒られたりしたものだ。Wiens氏も分解が大好きな子どもで、エンジニアだった祖父と一緒にいろいろな物を小さいころから分解してきたという。
成長してもガジェットに対する興味は尽きず、大学で技術を学びエンジニアになったWiens氏は、どんなエンジニアも最初は物を壊すことを体験して、ガジェットの仕組みに関する知識を得る、と話す。第一「中身を見ることが楽しい」から分解するのだという。
このように分解や修理の経験を積んだWiens氏は、ある日本人が趣味で運営していたウェブサイト「KODAWARISAN」から大きな影響を学生時代に受けた。KODAWARISANはApple製品のレビューや「分解バラし」を紹介することで知られたサイトで、日本語で書かれているにもかかわらず米国にも多くの読者がいた。
KODAWARISANの後を追うように立ち上げられたiFixitは、分解する速度を競うライバルとなった。当初は時差の関係でKODAWARISANが先行していたものの、徐々にiFixitがスピードを上げ、今ではKODAWARISANがiFixitの分解レポートを紹介するような状況にまでなった。
分解スピードの面ではKODAWARISANを追い抜いたが、iFixitとKODAWARISANは完全に同じ哲学を共有しており、今でもよい関係にある。
iFixitがガジェットを分解する目的は、中身を見たいという好奇心を満たすだけでなく、修理方法を見い出し、修理マニュアルを公開することだ。そのため、分解レポートでは、対象デバイスの修理しやすさを示すスコア「Repairability Score」(修理容易性スコア)を公表している。
Repairability Scoreは、モジュール化されたデザイン、バッテリが取り外せること、標準的なドライバで分解できること、画面が簡単に交換できること、といった観点で加点され、過剰な接着、はんだ付けされた部品、複雑な分解手順で減点される。基本的に、分解に時間のかかるガジェットのスコアは低い。
これまで分解した膨大なガジェットのなかには、「修理をまったく考えていないと思われる」製品もあったと話すWiens氏に、代表的なガジェットを挙げてもらった。すると、Microsoftの「Surface Laptop」「Surface Pro」が「おそらくノートPCでは最悪」と答えてくれた。分解には破壊がともない、修理など不可能で、「Microsoftですらバッテリ交換もできないのではないか」ということだった。
Wiens氏が分解のしやすさに拘るのは、修理のしやすさおよびリサイクルのしやすさにつながるからだ。
例えば、iFixitが10段階評価で最低の0というRepairability Score、すなわち修理が不可能と断じたAppleのワイヤレスヘッドホン「AirPods」はリサイクルも困難だ。実際、複数のリサイクル業者にAirPodsを分析してもらったところ、分解と素材分類に手間がかかってしまい、リサイクルは受け付けられない、との結論だったという。修理しないにしろ、リサイクルできないことによる環境負荷の増大を、Wiens氏は問題視しているのだ。
なお、同じMicrosoftの製品でも「Xbox One」は分解が容易で印象がよいそうだ。任天堂のゲーム機「Nintendo Switch」のRepairability Scoreも高く、修理しやすい構造になっていた。
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