世界中でシェア自転車サービス(バイクシェアリング)ブームが巻き起こっている。上海を本拠地とし、シンガポールやイギリスでも営業中の大手シェア自転車企業Mobikeは6月に日本進出を発表し、同社のライバルであるOfoは2017年の春に評価額が10億ドルを超えたと報じられていた。
自転車大国オランダでも現地企業のFlickBikeやデンマーク発のDonkey Republic、さらにはシンガポール発のoBikeが、GPSを利用して特別な駐輪スタンドを必要としない、いわゆる「ドックレス」のシェア自転車サービスを主要都市で提供している。
しかし、このほどアムステルダム市がその流れに待ったをかけた。同市は2017年の秋から公共の場に停められているシェア自転車を撤去すると発表したのだ。市民が所有している自転車やホテル・店舗などで貸し出されているものは対象外で、「公道を商業目的で利用している」シェア自転車のみが対象となるようだ。
この決定の背景について、アムステルダム市議のPieter Litjens氏は「アムステルダム市は駐輪スペースの拡大に向けて努力を重ねているが、これは企業のためではない。公道に置いてあるシェア自転車は今後撤去していく意向だ。シェア自転車サービスの目的は、自転車を有効活用して街中の混雑を減らすことであるはずだ。これまでのところ自転車の数はむしろ増えており、私たちにはそれを止める義務がある」と語った。
シェア自転車による違法駐輪は、本場中国でも大きな問題になった。米国のサンフランシスコに至っては、自転車の大量流入を危惧し、シェア自転車サービスを許可制にすべきという議論まで巻き起こっていた。
シェア自転車に限らず、使われていない資産を有効活用することが目的のシェアリングサービスを展開している企業は、各国の自治体・規制当局と戦いを繰り広げている。Uberにはアジアや欧州の一部で営業停止の処分が下され(営業が再開された地域もある)、Airbnbにも規制の波が押し寄せている。バルセロナやベルリンでは、アパートを普通に貸し出すよりも収益性が高いと気づいた不動産会社などが民泊サービスとして日貸し物件を増やしたため、現地の人びとの住む家が減少するという問題まで発生。一部シェア自転車の問題とも通じるところがある。
その一方で、各サービスを使ったことがある人であればお分かりの通り、ユーザーとしては便利なサービスを安く利用でき、特に旅行者としては助かる面も多い。シェア自転車に話を戻すと、Litjens氏の発言通り、本来は自分で自転車を所有しなくても誰かと共有して使えるので、個人としては自転車の購入費用やメンテナンスコストがかからず、街としては混雑を解消できるというメリットがあるはずだ。
それではシェア自転車の良い点を生かしつつ、公益に反しないようなサービスを展開していく上で何が課題となっているのだろうか。
アムステルダムに関していえば、市民ひとりが所有する自転車の台数は1台を超えるとさえ言われている。つまり、原則的にアムステルダム市民はこれ以上自転車を必要としていない。すると当然のように、市民にはシェア自転車を利用するインセンティブが働かず、むしろシェア自転車が自分の駐輪スペースを塞ぐ邪魔者のように映ってしまう。
そもそもオランダ(またほとんどの国)で、ビジネス目的で許可なしに公道を使うことは法律で禁じられている。しかし、かつてのFacebookのスローガンだった「Move fast and break things」と言わんばかりに、規制対応は後からという姿勢のスタートアップは後を絶たない。
先述のFlickBikeを設立したVikenti Kumanikin氏も、アムステルダム市が強硬策に出た理由のひとつは企業が自主規制をしないからでは、と話している。テクノロジで人びとの生活を豊かにするのがミッションのはずの企業が、逆に不便をもたらしていては本末転倒だ。
シェア自転車サービスが話題になる以前から、ロンドンやパリなどでは自治体や公共交通機関主導の類似サービスが提供されている。ほとんどが24時間利用でき、料金も手頃なためサービス開始当時は話題になった。しかし、すべての自転車は専用のスタンドに停めなければならず、近くのスタンドが空だったり、目的地の近くにスタンドがなかったりといった問題がある。
だからこそ、GPSを使って自分の近くの自転車を見つけられる上、乗り捨てもOKなドックレスシェア自転車サービスが人気になったのだ。だが、皮肉なことにその強みが先述のような問題を生み出してしまった。つまり、現状のルールに沿った形でサービスを運営しようとすると利便性が損なわれ、利便性を追求するとルールに反してしまうということだ。
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