では、これらの課題はどのように解決できるのだろうか?
残念ながらこの課題に関して短期的な解決策はない。今ある自転車を手放すよう市民に強要するというのは現実的ではないし、かと言って自転車が自宅にあるのにわざわざシェア自転車を利用したがる人もいないだろう。
その一方で、自転車の盗難も大きな問題だ。アムステルダムに住む友人の中にも、1年で3台もの自転車を盗まれた人がいる。しかし、そもそも自分の自転車でなければ盗まれることもなく、盗む側も個人ではなく企業が相手になることでリスクが高まる。さらに指定されたスペース以外に停められた自転車は、現状の規制でも撤去されてしまうため、自転車の数自体は減るにこしたことはない。
そうなると、コスト面でも利便性の面でも、長期的にはシェア自転車を利用したいと考える市民の数が増えると考えられるのではないだろうか。アジアでもっとも自転車保有率が高い日本についても同じことが言えるかもしれない。
スタートアップの機動性というのは必要悪とも考えられる。リスクをとって大企業や公共機関ができないサービスを提供するからこそ、彼らは莫大な資金を集め、世界中でユーザーを獲得できるのだ。だからといって、ルールを無視してサービスを展開すると今回のアムステルダムのような状況に陥ってしまう。
規制当局側にも問題はある。たとえばビットコインをはじめとする仮想通貨の世界では、普及につれて各国当局が対応を模索し、仮想通貨が正式な貨幣や投資対象として認められつつある(日本でも4月から仮想通貨が通貨として認められている)。金融の世界では次々に新しい商品が生まれるため、規制する側の対応力は向上している。しかし、テクノロジが生活のあらゆる側面を変えつつあることを考えると、これまで新しいことを受け入れることが比較的少なかった分野でも規制団体の積極的な対応が求められるのだ。
実際に規制を考慮してからサービスを開始する企業がすでに出始めている。サンフランシスコで設立されたシェア自転車企業Spinは現地の事情をよく知っているということもあり、自治体との関係を良好に保つため、Airbnbのポリシーチームを創設したMolly Turner氏をアドバイザーに迎えた。このように企業・規制団体の両者が積極的に動くことで各地の事情を考慮した最適解を求められるのだ。
「ルール」というのは法律以外の形をとることもある。シェア自転車の違法駐輪が問題となった中国の一部では、マナーの悪いユーザーがサービスを利用できなくなる仕組みが導入された。政府指導の下、シェア自転車企業はマナーの悪いユーザーの情報を共有し、悪質なユーザーと認定された人は類似サービスを利用できなくなってしまうのだ。さらにこの情報は信用情報とも紐づけられ、マナーの悪さが住宅ローン金利にまで影響を及ぼすとされている。
Car2goのようなカーシェアリングサービスでも、指定エリア外に駐車された場合は罰金が発生するようになっている。さらに同サービスでは、電池が残り少ない車を充電した人には追加で10分間の利用時間が与えられる。
中国の例はさすがに行き過ぎな感もあるが、対面での取引がないことから傍若無人な振る舞いをとるユーザーに対して罰則規定を設けたり、マナーの良いユーザーに報酬を与えたりすることで、法律に依存せずにユーザーにルールを守らせることができるのではないだろうか。
日本進出を決めたMobikeは専用のスタンドを使ったサービスを展開するようだが、今後ドックレスのシェア自転車サービスが上陸する可能性も大いにある。そのため、オランダと同じレベルとは言えないまでも、自転車保有率では世界上位に位置する日本は今回触れたような問題に直面しかねない。新たな問題を生み出さずに利便性の向上や街のスマート化を実現するためには、政府・企業両方の歩み寄りが必要だ。
(編集協力:岡徳之)
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