2020年を見据えて、スポーツ動画ビジネスは何を目指すのか--朝日新聞らが議論 - (page 2)

収益を生み出すために、ネットスポーツ中継は何を目指すべきか

 続いてディスカッションのテーマになったのは、ビジネスモデルの話題だ。ネットスポーツ中継のサービスには、広告モデルを収益源として無料で提供しているものと、視聴者にサービス利用料金を課金して有料で提供しているものがある。どちらがビジネスモデルとして適切かというテーマに、答えはまだ出ていない。しかし、3名の登壇者から語られた意見から示唆されるのは、ネットスポーツ中継のビジネスモデルは“有料か/無料か”という単純なものではないということだ。

 SportsNavi Liveで月額課金型の有料サービスを展開している小林氏は、「無料のテレビでスポーツ中継を観てきた従来の文化を転換するのは簡単なことではない。市場はまだ追いついてきていない」とした上で、有料・無料の二者選択ではなく、ある部分は無料で提供し、ある部分は有料で収益を得るという“ハイブリッド”のバランスをどのように作るかが重要だという認識を示した。

 「ネットスポーツ中継には配信コストをどう回収するかという課題があるが、そもそもスポーツが持っている資産価値が(サービスによって)高まっているかということを、もっと意識しなければならない。サービスを通じて競技のファンが何人増えて、その人がどれくらいサービスを利用してくれるのか。それを“有料では無理”、“無料ではサービスを維持できない”という二極で議論するのではなく、いかにして両者のベストバランスを作るかを考えなくてはならない」(小林氏)。

 一方、朝日新聞のバーチャル高校野球は無料で中継を視聴できるモデルだが、それでサービスは永続的に提供できるのか。三橋氏は「無料で提供していくことに限界はあるのではないかとは感じている。他の配信事業者に制作するコンテンツを提供したら収益になるのではないかと感じることもある。しかし、来年100回大会を迎える高校野球を第1回から支援してきた立場からすると、多くの方に簡単に視聴してもらえる環境を維持していくことが、高校野球の未来にとって重要なのではないか」と語る。

 今後も無料での提供は続けていく予定で、高校野球に気軽に触れられる機会を提供し続けることを通じて、高校野球そのものの支援をしていきたい考えだ。ちなみにハイブリッドのビジネスモデルという点では、過去の大会のアーカイブ視聴は有料で展開しているのだという。

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無料でコンテンツを提供する意義を語る三橋氏

 そして、視聴者人口が人気スポーツほど確保できないマイナースポーツにとっても、サービスを維持するための収益モデルは大きな課題だ。須澤氏はビジネスモデルについて、「私たちにとって中継配信の最も大きな意義は、そのスポーツを知ってもらいコアなファンを生みだすということ。そして、そのコアなファンに競技のDVDを買ってもらったり、ニュースの素材としてテレビ局にコンテンツを販売したりといったコンテンツの二次活用で収益化することを考えている」と説明。加えて、サービスで生み出された新たなファンが実際に会場まで試合を観に行くところまで繋げなければ競技そのものが衰退するという認識を示し、「無料と有料のハイブリッドによって、ファンを顕在化して試合に来ていただくという好循環を作っていきたい」と述べた。

 こうした話を受けて、小林氏は「ハイブリッドの試行錯誤や工夫はどんどんしていくべきだ。たとえば、SportsNavi Liveはプロ野球・福岡ソフトバンクホークスのファンクラブ特典に組み込まれているが、スポーツのコアなファンの方は、応援するチームを支えるために相当な支出をしていただいているという実態がある。そうしたスポーツを巡るエコシステムの中で映像配信サービスだけが孤立しないことを意識しなければならないのではないか。競技団体も、ファンを増やすために複合的なビジネスモデルをどんどん推進すべきであり、私たちはそうした競技団体のためのプラットフォーマーであるべきだ」とまとめた。

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ソフトバンクホークスのファンクラブではSportsNavi Liveが無料視聴できる特典が提供されている

“2021年以降に何が起きるのか”を見据えて、いますべきことは

 スポーツを巡っては、2019年のラグビーワールドカップ開催、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催、2021年のワールドマスターズゲームズ関西の開催と大きな国際大会の日本開催が続き、明るい話題が多い。では、こうしたスポーツの大きな盛り上がりの中でネットスポーツ中継はこれからどうなっていくのだろうか。

 小林氏は「広告モデルにとっては追い風になるだろう。SportsNaviに対する広告主からの問い合わせもどんどん増えているのが現状だ。また日本を代表する企業がオリンピックのスポンサーになり、メジャーなスポーツだけでなくパラスポーツやマイナースポーツにも名だたる企業がスポンサーに入っている。広告ビジネスという面では、2020年までは非常に好調だろう」と語り、広告という観点から盛り上がりを実感しているようだ。しかし小林氏は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終了した後のスポーツの世界に大きな不安があると指摘する。

 「2020年までの盛り上がりに安心していては、2021年に大きな不況が待っているのではないか。いわば今は“バブル”の状態であり、2020年までに残された期間の中で、スポーツの本質的な価値をもっと高めていなければならない。今は決して安心できるような状況ではなく、競技団体も口をそろえて“2021年以降が心配だ”と不安を語っている。ネットスポーツ中継はまだ始まったばかりであり、サービスの在り方やビジネスモデルをもっと磨いて2021年以降に備えなければならないのではないか」(小林氏)。

 一方で高校野球を巡っては、来年に第100回大会を迎え、また野球が東京大会からオリンピックの公式種目に復活したことで、これから注目はますます高まっていくことが予想される。そうした中で三橋氏が語ったのは、サービスの継続性を担保するための課題だ。

 三橋氏は「無料の広告モデルを展開している中で、“2020年までは何とかなるだろう”という手ごたえはあるものの、ネットスポーツ中継はインフラコストや制作コストが高く、それを回収してプラスに転じるためにどのような協業ができるのかを模索していかなければならない。2020年以降に大きな谷がやってきたとしても、そのインパクトを分散できる仕組みが作っていければ収益を出せるのではないか」と語り、ビジネスモデルやサービスのコスト構造をブラッシュアップしていく意向を示した。「高校生がいる限り、高校野球はなくならない。次の100年に向けてどうすれば高校野球が支持され続けるかを考えながら、動画ビジネスに取り組んでいきたい」(三橋氏)。

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「2020年に向けてファンを顕在化させていきたい」と須澤氏

 そして、まさに2020年に向けてマイナースポーツにもスポットライトが当たろうとしている中において、須澤氏は「今できることは、多くのファンを顕在化させて基盤を作ること。そしてマネタイズの課題は避けて通ることはできない」とコメント。また、注目や人気が高まることでスポーツ競技の放送権料が高騰する可能性がある点について語り、「権利が高騰すると制作のクオリティもテレビ中継並みに高めなければならないという課題が出てくるのではないか。視聴者の目が肥えてくると、求められる制作のレベルも高くなる。ネットならではのコンテンツ制作の方法を追求していくことも重要なのではないか」と提言した。

 スポーツの競技団体も、ネットスポーツ中継に携わる事業者も2021年以降を見据えてスポーツそのものの価値を高めるための挑戦を、これからの短い時間の中でしていかなければならないという認識で3名は一致した。こうした話を受けて、小林氏は「どうしても課題ばかりが出てくるが、関わっている人たちは“何としても(ネットスポーツ中継のビジネスを成功させたい)”という思いを持って取り組んでいる。これからどんどんスポーツの価値を高めていくために議論をさらに深め、課題を解決するためにネットスポーツ中継に携わる人々が事業者の壁を越えて力を結集していければ」とまとめた。

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