学生が学生に投資するVCファンド「DSIF」--オランダの大学発

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 世界各地で学生の起業意識を調査しているGlobal University Entrepreneurial Spirit Students’ Survey(GUESSS)のレポートによれば、日本で大学卒業直後に起業を考えている若者の割合は1.5%(PDF)。卒業から5年経過した人たちを対象にした調査でも、この数字は10.4%までしか伸びない。

 一方、中小企業による雇用割合が日本とほぼ同水準のオランダでは、卒業直後と5年後の時点での起業志望者の割合が、それぞれ4.8%、27.1%(PDF)となっており、両国の間には大きな隔たりが見られる。

 イノベーションが一国の経済力に深く関係している今、若者の起業家精神の醸成はどの国にとっても需要な課題であることに疑いの余地はない。そんな中、起業文化が旺盛なオランダで、さらにそれを後押ししようと新たな取り組みが始まった。

学生が学生に投資するファンド

 Dutch Student Investment Fund(DSIF)は、トゥウェンテ大学とサクシオン応用科学大学によって2015年に設立された。このファンドの特徴は、投資先企業が学生を中心に設立されたスタートアップであること、そして資金運用も学生が担うという点だ。


Dutch Student Investment Fundのウェブサイトより

 トゥウェンテ大学理事長のVIctor van der Chijs氏は、同ファンド設立の背景について「私たちは大学をあげて起業家の育成に力を入れており、オランダ経済のためにも学生起業家が必要だと考えた」と語っている。なお、シンクタンクのScienceWorksが世界有数の出版社Elsevierと共同で発行したランキングでは、トゥウェンテ大学が ”オランダでもっとも起業家精神溢れる大学”の称号に輝いた。

 DSIFの投資額は最大5万ドル(約650万円)に設定されており、投資先は大学の学部生、大学院生、そして大学卒業から12カ月以内の起業家が設立したスタートアップに限られている。投資形態としてはコンバーチブルノート(転換社債の一種で、資金調達時に評価額を決める必要がなくスピーディーな投資が可能)を使ったデット投資(返済期限のある貸出としての投資)の形をとっているため、スタートアップは投資を受ける時点ではファンドに株式を引き渡さなくて済む。

 DSIF側もエクイティ投資(返済期限のない、株式と引き換えに実施する投資)ほどのリスクをとらなくて済むため、ベンチャーキャピタル(VC)のように高リターンを求めてアグレッシブな投資戦略ばかりをとらず、起業の成長をサポートするような形で投資できるのだ。投資を受けた企業は、通常のVCから調達したときと同様、資金援助を受けるだけでなく、取締役会(これも学生のみ)や顧問委員会(エンジェル投資家などから構成される)からアドバイスも受けられる。

起業家の育成を意識した出資プロセス

 DSIFの出資プロセスをまとめた図が以下だ。


Dutch Student Investment Fundのウェブサイトより

 まず申請者は、ビジネスモデルの概要をA4サイズの紙1枚(電子データか紙かは問われず、書式も自由)にまとめてDSIFに送る。投資委員会がその中身を審査し、合格した企業はミーティングに招かれる。ミーティングでは事業の詳細に関する確認だけでなく、ファンドからアドバイスを受けられるため、申請企業はそれを参考に本格的にビジネスプランを検討し始める。

 その後、再度DSIFを訪れてプレゼンし、審査を通過すればタームシート(投資金額や期間などをまとめた契約書)の作成やデューデリジェンス(組織や財務に関する詳細な調査)へと移行し、晴れて投資が決まる、という流れだ。このプロセスからも、できるだけ門戸を広げ、学生起業家を育成しようとする運営者らの思いが感じられる。

 DSIF設立直後の2015年5月には、同年1月にトゥウェンテ大学の博士課程を修了したJasper van Weerd氏率いるLipoCoatへの出資が決まった。4万ユーロ(約520万円)の資金を調達した同社は、コンタクトレンズをはじめとする医療機器の表面にゴミが付着するのを防ぐためのコーティング剤(特許取得済み)を開発しており、2016年には医療コンソーシアムのNanoNextNLからも9万3000ユーロ(約1200万円)の助成金を獲得している。さらに同年、ナノテクノロジの業界団体MinacNedからは、スタートアップオブザイヤーの称号が送られ、今後ますますの活躍が期待される。

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