大手携帯3社の2016年度の決算が出揃った。3社ともに増収増益の好調な決算となるなど、順風満帆な業績を打ち出しているが、総務省のスマートフォン実質0円販売の事実上禁止と、それによるMVNOなど“格安”サービスの台頭が、各社の業績にも徐々に影響をもたらしてきており、各社の戦略にも変化が見られるようだ。
NTTドコモが4月27日に発表した2016年度の通期決算は、営業収益が前年度比1.3%増の4兆5846億円、営業利益が前年度比20.7%増の9447億円と、2015年度に続いての増収増益を達成。2014年度に大幅に業績を落とした際、2017年度に達成するとしていた通期目標を1年前倒しで達成するなど、非常に好調な様子を見て取ることができる。
好業績実現の背景にあるのは、ドコモがこれまで力を入れてきた3つの取り組みが、いずれも大きな成果を上げたことだ。1つ目は、業績を大きく落とした要因となった通信事業の“止血”。新料金プラン導入当初に大きく下げたARPUを、データ通信の利用拡大によって回復させてきたのに加え、2015年に開始した光ブロードバンドサービス「ドコモ光」が、4月19日には350万を達成するなど好調を維持。固定・携帯のトータルで、ARPUを2013年の水準にまで回復させている。
2つ目はスマートライフ領域の拡大だ。スマートライフ領域の営業利益は前年度比51%増の1119億円と、目標には届かなかったとしているものの、伸びは大きい。「dマーケット」や「あんしんパック」などの主力事業や、「dカード」などの金融・決済系サービスが順調に伸びているだけでなく、2月に開始したばかりのスポーツ動画サービス「DAZN for docomo」が1カ月半で36万契約を獲得しているのもプラス要因だ。
そして3つ目はコスト効率化であり、こちらは目標通り1100億円の削減を実現。3年間で4700億円のコスト削減を実施するなど、利益を押し上げる大きな要因となっているようだ。
とはいえ、ここまでの業績回復に向けた動きは、ある意味前の社長である加藤薫氏の体制の延長線上に過ぎない。2017年度からは、2016年に代表取締役社長に就任した吉澤和弘氏の体制による戦略の真価が大きく問われることとなる。そこで吉澤氏は、今回の決算発表に合わせて、新たな中期戦略「beyond宣言」を打ち出した。これは顧客とパートナー企業それぞれに対して3つずつ、合計6つの宣言をすることで、新たな挑戦を進めるというものだ。
中でも注目されるのは、顧客に向けて料金やポイントなどでお得さや利便性を実感させる「マーケットリーダー」宣言である。この宣言に向けた取り組みの第1弾として、ドコモは親回線のデータ通信容量を子回線とシェアする「シェアパック」利用者向けに、家族内通話のみ定額だが、月額1000円を切る料金を実現した「シンプルプラン」と、30Gバイトの容量を安価にシェアできる「ウルトラシェアパック30」の提供を発表している。
特にシンプルプランは、シェアパックを直接契約しない子回線の利用者が契約すると、“格安”のMVNOに匹敵する料金を実現できるということもあり、大きな注目を集めている。一方で、こうした料金プランの提供は、せっかく回復傾向にあるARPUを再び下げてしまう要因にもなりかねない。
しかしながらドコモでは、最近急速に台頭している格安の通信サービス、特にワイモバイルやUQ mobileなど、他社系列のサービスへのユーザー流出が大きな課題となっている。それだけにシンプルプランには、多少ARPUが下がったとしてもより安価なプランの提供によって顧客の維持を優先した方が得策だという狙いを見ることができる。
長期的に見れば次世代通信の「5G」に向けた取り組みが重要だが、やはり足元の顧客流出は無視できないというのがドコモの本心であろう。通信事業の止血に目途が付いた今後は、流出する顧客の止血が、吉澤氏体制にとっての当面の課題になるといえそうだ。
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