好業績に迫る“格安”の影--携帯大手3社の決算を読む - (page 3)

MVNOシフトを明確にしたKDDI--ライフデザイン事業を生かせるか

 KDDIが5月11日に発表した2016年度の決算は、売上高が前年度比6.3%増の4兆7483億円、営業利益が9.7%増の9129億円と、こちらも引き続き増収増益を達成した。業績好調の要因は、国内の通信事業が順調に伸びていることが大きく、auユーザー1人当たりの月間売上高を示すARPAも、通信ARPAが前年度比2.5%増の5830円に拡大するなど、モバイル通信料収入は前年度比1.8%増の1兆7863億円と、堅調な伸びを記録している。

KDDIの代表取締役社長である田中孝司氏
KDDIの代表取締役社長である田中孝司氏

 一方で、前年度と大きく変化しているのが、契約数に関する動向だ。他の2社と同様、MVNOなど“格安”のサービスにユーザーが多く流出していることを受け、KDDIは2016年度の第3四半期から、従来のauの契約者数だけでなく、UQコミュニケーションズやジュピターテレコム、ビッグローブといった傘下企業が展開するMVNOの契約数も合計した「モバイルID数」を、新しい契約数の指標として評価している。

 そして3月末のモバイルID数を見ると、auの契約数が一層落ち込む一方、ビッグローブの買収によって、2016年12月時点と比べるとMVNOの契約数が倍以上に拡大。モバイルID数としては増加トレンドに転じたとしている。

auとMVNOの契約数を合わせたモバイルID数は、auのユーザー数減少をビッグローブの買収などによって補い、増加に転じている
auとMVNOの契約数を合わせたモバイルID数は、auのユーザー数減少をビッグローブの買収などによって補い、増加に転じている

 こうした市場変化を受け、KDDIの代表取締役社長である田中孝司氏は、2016年度に打ち出した中期目標の達成に向け、国内通信事業、ライフデザイン事業、そしてグローバル事業と、大きく3つの事業に注力する方針を示している。中でも注目されるのは、やはり国内通信事業に関する取り組みだ。auの新規ユーザー獲得が困難になる中、いかに国内通信事業の成長を維持できるかは、KDDIの業績を拡大する上で非常に重要な意味を持ってくるからだ。

 国内通信事業の成長に向けては、auとMVNOとで異なる方針をとるようだ。auに関しては、「au STAR」や「au WALLET」によるポイント連携の強化や、2016年に打ち出した「スーパーデジラ」のような大容量プランの利用拡大によって、ユーザーの繋ぎ止めとARPAの拡大を進める。一方でMVNOに関しては、販売拡大によってユーザー獲得のドライバーとなる「UQ mobile」、ケーブルテレビの利用者獲得を強化する「J:COM MOBILE」、SIMカード主体にオンライン販売による新規顧客獲得を目指す「BIGLOBE」と、3社の強みとリソースを生かしてユーザー数の拡大を進めるようだ。

傘下のMVNOは、それぞれの強みを生かしてユーザー数を伸ばす、モバイルID拡大のけん引役として活用するようだ
傘下のMVNOは、それぞれの強みを生かしてユーザー数を伸ばす、モバイルID拡大のけん引役として活用するようだ

 気になるのは、モバイルID数の拡大とライフデザイン事業の拡大がミスマッチしかねないということだ。ライフデザイン事業はこれまで、auユーザーに向け生活に関連するサービスを提供し、利用価値を最大化することを重視して展開してきた、クローズドな戦略でもあった。だがライフデザイン事業を支えるauのユーザー数が減少傾向にあり、auユーザーを主体としたライフデザイン事業の拡大には将来像が描きづらい。

 ライフデザイン事業の成長のためには、auだけでなくモバイルID数拡大のエンジンとなるMVNOに向けたサービス提供が必要だが、現時点でKDDIは、MVNOの利用者に対しライフデザイン系のサービスを提供するという方針は打ち出していない。そのため、ライフデザイン事業の拡大には不安があるのだ。

ライフデザイン事業は提携や出資などによって拡大を図る方針だが、今後はauだけでなく、ユーザー数が増えているMVNOのサービスといかに連携させるかが重要となってくる
ライフデザイン事業は提携や出資などによって拡大を図る方針だが、今後はauだけでなく、ユーザー数が増えているMVNOのサービスといかに連携させるかが重要となってくる

 MVNOのユーザーにライフデザイン系サービスを利用してもらうには、ドコモのようにアカウントサービスの「au ID」や各種サービスのオープン化が必要だが、それは同時にauの囲い込みが弱くなり、auからMVNOへのユーザー流出を容易にしかねないことを意味する。それだけに田中氏は、この点に関して慎重な発言を続けているが、MVNOのユーザー拡大は一層進んでいくだけに、いずれ何らかの判断が求められるのは確かであろう。

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