5月10日に発表されたソフトバンクグループの2016年度の決算は、売上高が0.2%増の8兆9010億円、営業利益が12.9%増の1兆260億円と、増収増益を記録。それに加えて営業利益が2014年度の1兆円超えを達成し、さらに純利益も1兆4263億円と、初の1兆円超えを達成した。
もっとも純利益の1兆円超えには、アリババやSupercellの売却による一時益が大きく影響している。しかし、同社代表取締役社長の孫正義氏によると、2014年に営業利益1兆円超えを達成した際も一時益による影響が大きかったが、その後実力で“兆円超え”を達成できたとし、将来的な一時益なしでの純利益1兆円超えにも自信を示した。
今回の決算説明会で多くの時間を割いて説明したのは米通信子会社Sprintの業績だ。Sprintの売上高は前年度比4%増の333億ドル、営業利益は241.5%増の17.3億ドルに拡大している。その要因として孫氏は、純増数の拡大と解約率の低下、そして大幅なコスト削減を挙げた。また、これまで品質が悪いと言われてきたネットワークに関しても、小型の基地局やレピーターの設置、そして同社が多く保有する2.5GHz帯の電波出力を上げてカバーエリアを広げる「HPUE(High Power User Equipment)」を導入し、一層の改善を図ることを打ち出している。
これだけSprintに関する説明に力を入れていたのには、米国の携帯電話市場再編に向けて、孫氏が積極的な姿勢を見せたことが影響している。米国の政権交代によって通信業界の規制緩和への期待が高まっていることから、孫氏は規制の影響で一度は合併を断念したT-Mobileなどと交渉を進め、Sprintを中心とした米携帯市場の再編を再び狙おうとしているのだ。そのための交渉を有利に進めるためにも、一時は「売却しようとしても、誰も買ってくれなかった」(孫氏)ほど業績が悪化していた、Sprintの業績回復をアピールする必要があったといえそうだ。
一方で、ソフトバンクを主体とした国内の通信事業に関しては、売上高が前年度比1.6%増の3兆1938億円、利益が4.5%増の7196億円と引き続き業績が安定して伸びていることから、今回も説明は簡素にとどめられていた。とはいえ、その内訳を見るとやはり不安を抱かせる部分が随所に見られる。
中でも気になるのがARPUの低下で、特に通信ARPUは、前年度比マイナス200円の3950円にまで下がっている。これには最近の“格安”人気の影響から、ソフトバンクの契約が減り、ワイモバイルの契約が増えていることが影響していると見られる。ソフトバンクはドコモと異なり、自社で直接低価格のサービスを展開しているだけに、ARPUの低下が業績の低下に直接つながり得るところが気がかりだ。
現在は光ブロードバンドサービスの「ソフトバンク光」が大きく伸びていることから、通信サービス全体では売上が伸びており、投資の減少と合わせて膨大なフリーキャッシュフローを生む源泉へとつながっている。だが、今後は一層低価格サービスに流れるユーザーが増え、さらに5Gを控え投資が再び増加トレンドに向かう可能性が高い。業績を落とす要因が増えているだけに、国内事業に関しても明確な成長戦略が求められるところだ。
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