“社会課題”を疑似体験--オランダで発展した「シリアス・ゲーム」

 ここ数年のスマートフォンの普及により、ゲーム産業が以前にも増して活発な動きを見せている。オランダのゲーム調査会社Newzooの2016年版「グローバルゲームマーケットレポート」によると、2016年は996億米ドル(約10.8兆円)の規模で、2019年には1186億ドル(約12.8兆円)になると予測されている。

 その中で、世界18位、約5億2400万米ドル(約569億円)の市場規模をもつ国がある。人口約1700万人、九州並の国面積をもつオランダである。市場規模でみると世界でのプレゼンスは高いとはいえないが、エンタテイメント系ゲームとは一線を画す「シリアス・ゲーム」というジャンルで高い評価を受けている。

実践、実用を重んじる「シリアス・ゲーム」

 シリアス・ゲームとは、娯楽性を第一目的にせず、社会のさまざまな分野で発生する課題をゲームという形態で疑似体験し、解決することを学ぶゲームである(オランダではアプライド・ゲームとも呼ばれる)。現実の世界で遭遇するかもしれない問題をシミュレーションやクイズ方式で楽しく学びながらその分野に関する関心を喚起し、実際の事象において効果を上げることを目的としている。

 教育や医療を中心として、職業訓練や企業や自治体での研修などにも応用されている。オランダではゲーム産業成長の黎明期からこのシリアス・ゲームに注力し、現在もゲーム関連会社の半数がシリアス・ゲームの開発を専業にしているという。

各社が開発するシリアス・ゲーム

 各社が開発したシリアス・ゲームをいくつか紹介しよう。「Underground」は、Grendel gamesが開発したアクションゲーム。女の子Sariと彼女の友だちロボットSw4nkがさまざまな障害をクリアしながら地下を探検していくゲームだが、実際はフローニンゲン大学医療センターの依頼によって開発された腹腔鏡手術のトレーニングゲームである。実際の動作技能で効果を上げ、準備にも役立っているという結果が出ている。

「Underground」
「Underground」

 「Into D’mentia」は、認知症を体験するシミュレーションゲーム。アムステルダムのゲーム会社IJsfonteinが医療機関、大学コンソーシアム、企業などと共同開発。認知症に苦しむ老人の混乱や不安を追体験することで患者の心理を理解し、よりよいケアにつなげていくことを目的としている。

「Into D’mentia」
「Into D’mentia」

 「Skip a Beat」は、プレイヤーの心拍数をゲームのコントローラーにする世界初のモバイルゲーム。ゲームの局面で変化する心拍数によって、どのように感情(心拍数)をコントロールするかをゲームで学ぶことができる。アムステルダムに拠点をおくHappitechが開発した。

「Skip a Beat」
「Skip a Beat」

産官学が強力に連携して業界を後押し

 オランダでゲーム産業が成長したのは、いくつかの理由がある。まずは、ITの整備環境が挙げられる。ブロードバンドの家庭の普及率は世界2位で、マイクロソフトやグーグルなど名だたるIT企業をはじめ、全ヨーロッパの3分の1のデータセンターがアムステルダム周辺に集中していることからも、高速かつ安定したネットワーク環境がうかがい知ることができる。

 次に産官学が強力に連携して、研究開発、人材育成など多岐にわたってゲーム産業を支援していることも大きい。ゲーム業界のメッカであるユトレヒト市およびユトレヒト州が援助しているゲーム振興団体「ダッチ・ゲーム・ガーデン」がインキュベーターとなって、イベントやアワードなどを主催したり、若い会社をサポートしたりして業界全体を盛り上げている。

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