バンダイナムコエンターテインメントから、PlayStation VR(PS VR)用ソフトとしてリリースされた「サマーレッスン」。本作は2014年に、VR空間内で女性キャラクターとコミュニケーションを楽しめる技術デモとして発表。女の子とのコミュニケーションが楽しめるというシチュエーションや、キャラクターとの近い距離感、強い実在感などが、実際に体験したユーザーから高評価を得たこともあって大きな話題となった。
当初はあくまで技術デモとしていたが、その反響の大きさから「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」として製品化。PS VRのローンチタイトルとして配信された。また5月25日には基本ゲームパックと追加4コンテンツを収録したパッケージ版「サマーレッスン:宮本ひかりコレクション」が発売予定となっている。
製品化にあたっては、女子高生である宮本ひかりの家庭教師となり、一週間後のテストに向けて、ひかりちゃんとコミュニケーションをとりながら一緒に頑張る……というストーリーが加えられた。とかく「VRは体験してみないと魅力が伝わらない」「VRは従来のゲーム作りの手法が通用しにくい」といわれているが、キャラクターを魅力的に見せるうえでのセリフやシチュエーションも、従来のアニメやゲームなどのシナリオやセリフ作りとは異なり、試行錯誤があったという。
VR関連では技術的な観点からの話題が多くあるが、ここではVRコンテンツにおけるキャラクターを魅力的にみせるシナリオはどういうものかという観点から、実際にシナリオ制作として携わったエレファンテの代表を務める日暮茶坊氏と、同スタッフの稲葉陸氏、そして本作のプロデューサー兼ディレクターを務めたバンダイナムコエンターテインメントの玉置絢氏に話を聞いた。
エレファンテは、ゲームやアニメなどのシナリオ制作やノベライズなどを事業の主体とする会社。日暮氏はこれまで数多くのアドベンチャーゲームやアニメ脚本、ノベライズなどを手がけ、直近ではアニメ「蒼き鋼のアルペジオ」の脚本とノベライズを担当。稲葉氏はゲーム「アイドルマスター プラチナスターズ」などのシナリオも手がけている。
玉置氏:技術デモのときは、私が脚本を書きました。ただそれは「こういうシチュエーションをVRで表現すると、驚いたりドキッとしてもらえるのでは」という、一瞬一瞬のシチュエーションをつなぎあわせたものだったんです。あと乗せで、多少なりとも感情移入できるように、キャラの設定を何となく匂わせるものをセリフに入れていました。あくまで技術デモですので当時はそれでよかったのです。その後、いよいよ製品化するにあたってまず考えたのは「購入されるユーザーの期待に応えること」と「新たな提案もすること」です。
そのとき、シナリオに求めていた方向性としては3つありました。まず「VRの驚きを提供する話の流れのシナリオ」、そして「キャラクターを知ってもらうため、愛着を持ってもらうためのシナリオ」、もうひとつが「より感情移入してもらう筋書のあるドラマ」ですね。
玉置氏:製品化してユーザーから求められているものを提供することを考えると、自分ひとりでこなすのは難しいということと、VRコンテンツは誰も正解というのを持ってない領域ですので、ただ単にシナリオをお願いしてテキストを書いていただくというだけではなく、その能力があるうえで、一緒に悩みながら作り上げていくという柔らかさを持った方を探していました。
エレファンテさんは、日暮さんと共通の知人を通じて紹介していただきました。実は日暮さんが関わられていたアドベンチャーゲームを遊んでいたり、ノベライズを読んでいたことがあったので、お名前は知っていたんです。ですから、ある程度感覚的に通じやすいと思いましたし、私自身もご一緒できるのは楽しみでもありました。なにより、いい方向の化学反応が起きるのではと思ったんです。
日暮氏:PS VRやサマーレッスンの技術デモの話題は耳にしていましたが、このお話をいただくまで体験したことがなかったんです。で、「とりあえず体験してください」と言われたやってみたら本当にすごいと感じました。
稲葉氏:私はよくわからないうちに連れてこられて、いきなりヘッドマントディスプレイをかぶらされたんですけど、もう一瞬で「すげー」と(笑)。
日暮氏:新しいもので面白そうなものなら、そりゃのりますよ……というぐらいの気分で引き受けました。
玉置氏:従来のゲームシナリオの仕事とは違って、スクラップ&ビルドをし続けるプロジェクトということはあらかじめお伝えしたのですけど、快諾していただきました。日暮さんと稲葉さんのノリの良さに救われたところもありますし、VRは言葉で説明するよりも、体験のほうが説得力があると。その体験こそが「面白いことができそう」というプレゼンにもなりました。
稲葉氏:とにかくすごい。それはすぐに伝わりました。でもどこから手を付けるかというところからの議論からはじまったので、そこからが長かったですね。
玉置氏:サマーレッスンで描かれているシーンというのは、テキストアドベンチャーではなく、一種のリアルタイムデモと捉えることもできます。2~3分程度の映画的なデモといってもいいかもしれません。アドベンチャーゲームのように、書いた文字がそのまま画面上に表示されるものではありませんから、シナリオではあるけど脚本とも言えます。なので当初は映像や3DCG映画の脚本家の方にお願いすることも検討しました。
ただサマーレッスンの雰囲気や、興味を持っているユーザーが求めている方向性を考えると、女の子が登場するキャラクターゲームやアニメのシナリオを手がけた方々にお願いするべきだと思いました。その上でVRの脚本という、今まで存在しないものをベースとして作り上げないといけないと、最初にお伝えしました。
稲葉氏:ゲームなどで培ったノウハウは使えない、かといって映像や映画の脚本とは違うというのはすぐに感づきました。なので、新しい脚本の書き方やありかたをお互いに探るところから始めました。
日暮氏:サマーレッスンの前に、蒼き鋼のアルペジオのアニメ脚本を担当したのですけど、普通のアニメとは違って全編フル3DCGによる作品でしたから、技術的な観点から、必要な素材や背景などを先に決めて把握しておかないといけないということはありました。制約はその延長にあるものかと思いましたけど、全然違っていて。基本的にはプレーヤーは座っていて動くことができないことなど、大枠での制約は伺っていましたが、小物回りとか細かい技術的要素で難しい表現については、あとからいろいろと出てきましたね。正直なところ、サマーレッスンは想像していた以上にやってはいけないことのほうが多かったです。
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