ほかにも、ある分野の専門家がAIシステムにかなわない、という楽天自体の例も披露した。地方競馬を盛り上げようとインターネット投票サービス「楽天競馬」を通じて「競馬ハッカソン」を実施したところ、エントリーされたAI勝ち馬予測システムが競馬分野のプロよりも優れた成績を残したのだ。このシステムを開発したのは競馬を知らない人で構成されたチームだが、機械学習アルゴリズムの一種であるランダムフォレストで高い精度のモデルが組めたという。
このように森氏は、AIシステムには従来の常識が通用せず、AIを使いこなす素人が専門家を凌駕(りょうが)する時代になったと結論付け、危機感を抱いているとした。そして、AIを活用しなければ難しい局面に来ており、企業はAI活用なしで生きていけない、と警告した。
森氏は、別の観点からもEC事業の難易度が高まったことを指摘した。インターネットの普及にともなうロングテール現象がその原因だという。
誰もがインターネットを利用できる現在、多彩な販売者が多種多様な商品をオンライン販売し、日本中、世界中の消費者がそうした商品にアクセスできるようになった。さらに、消費者の情報アクセス能力も高まり、個々がニッチな分野を深く掘り下げていける。つまり、販売者と商品だけでなく、購入者までロングテール化してきた。
その結果、膨大な商品のなかで思わぬものが売れてしまい、誰も売れる商品を予測できない。例えば「楽天市場」では、「200万~300万円する」ような実際に着られる甲冑が販売されて「半年先まで予約が一杯で買えない」現象や、1500袋の干芋が販売開始から1分で完売するといった現象が発生している。自分の周囲に買おうとする人が存在しないものや、今までの常識では大して売れないであろう商品が、売れる時代なのだ。企業は、もはや商品と顧客のことが分からない。
商品と顧客、購買に関するデータは膨大であり、人手で分析することなど不可能だ。この状況を打開するには、AIの活用が欠かせないし、特に自然言語処理の力が重要になるという。
例えば、AIを利用すれば、従来の形態素解析エンジンで適切に処理できなかった商品名などが、正しく解析できるそうだ。こうした基盤技術により、ロングテール時代でも商品の正しい検索やレコメンド、広告配信が可能になる。さらに、ファッション商品を分類するための商品ジャンル抽出にAIを使ったところ、売り上げが大きく増加した例もあったという。
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