2月21日と22日の2日間に渡り、本誌主催のイベント「CNET Japan Live 2017 ビジネスに必須となるA.Iの可能性」を開催した。2日目には、LIPの代表取締役社長兼CEOである松村有祐氏が登壇。「導入前に知っておきたいAI活用のコツ~賢くコスト削減するには~」と題し、ビジネスにおけるAI導入のヒントなどを解説した。
松村氏がCEOを務めるLIPは、いわゆる「出会い系」的な要素を排除した形でマッチングサービスを展開している。また、松村氏自身が学生時代から長らくAIの研究に携わっていたことから、現在もAI関連のコンサルティングや、人材育成を手がけているという。
AIの知名度や注目度は近年急速に高まっているが、その歴史は1970年代にまで遡る。当時のAI第1次ブームは、いわゆる「ルールベース」のプログラム技術に根ざしたもので、マイコン炊飯器の火力制御などが該当する。それから約20年後の第2次ブームでは、「機械学習」に注目が集まった。たとえば、数多くの画像の中から、一時停止の交通標識が写ったものだけを選別して、「赤い逆三角形」や「『止まれ』の文字」を判別できるアルゴリズムを人間が作成し、機械に処理させた。
そして、現在の第3次ブームでは「ディープラーニング」の領域へ到達。前述のアルゴリズム自体をコンピューターが作成できるようになった。ただ、いずれのブームも、ムーアの法則に代表されるコンピューター性能の加速度的進化があってこそ成り立つものだと松村氏は説明。そして、2014~2015年頃には画像認識の精度が人間を超えるレベルへと達するなど、極めて大きな節目を迎えているとした。
コンピューターの計算性能は今後ますます向上し、AIも当然進化するが、それでも万能な領域に達するのはまだまだ先で、現状のAI技術ごとに“得意・不得意”があると松村氏は語る。業務への導入前には、その点を理解しておくことが重要だという。
たとえば、ルールベースのAIでは「フレーム」の問題に直面する。チェスのような、ごく限定的なルールで優劣を競う際、その効果が最大化されるものの、フレームを広げ、「汎用ロボットに爆弾の解体処理をさせる。しかも安全に」となると、様相は変わる。爆弾の仕組みを覚えさせるだけでなく、その爆弾が設置された建物の耐久性なども考慮させなければならず、計算は極めて膨大になってしまう。
「人間ならば常識的に無関係要素を省いていけるが、AIにはあらゆることを教え込まないといけない」(松村氏) ため、ルールベースのAIを活用するには、単純要素への落とし込み、つまり、いかにフレームを狭めるかが重要となってくるとした。
一方、ディープラーニングにも課題がある。いくら機械が自動で学習するにしても、それだけのデータ量を確保しなければならないからだ。ただ、米国の電気自動車メーカーであるテスラは、製品開発にあたり同社製品のオーナーから運転データを収集しており、「課題解決の手段として非常に興味深い」と松村氏は話す。
企業が今後、AI開発を進めるにあたっては、これらの要素を加味した上で、最終的に人間を上回る精度が実現できるかがカギとなるとした。「上回らないと結局人間が最終的にチェックすることになる。できる・できないではなく、精度として期待できるかどうか。ここをきちんと考えてほしい」(松村氏)。
松村氏は、記憶容量と計算力の2点において、AIがすでに人間を凌駕していると説明。しかし、その一方でIQを比較した場合、人間のIQが仮に100だったとして、AIは1~2程度と考えるのが適切という。こうすれば「AIなら何でもできる」という誤解を払拭できるわけだ。「現状のAIは、特定のタスクを無限に近いストレージと計算力で正確にできる。木の実を割れないカラスが、その身を道に落として車に轢かせる、というようなことはできない」(松村氏)
AI研究とコンピューター性能の進化は続いており、AIの企業導入が進めば、それに付随して職業の在り方も変わってくる。定型的な作業をAIに代替させ、そのAIを監視するための職業が生まれたり、人員削減によって生まれた余剰資金をAIに投資するなど、企業の経営判断にも影響が出てくる。
松村氏は「今後数年でAIに置き換えられる業務については、残念ながら人員の再配置などを検討しなければならない。非正規雇用の増加といった諸問題はあるが、解雇なども念頭に置きつつ、人材採用していく必要もある」と語った。
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