ザッカーバーグCEOの宣言文は何を意味しているのか - (page 2)

 (1)の「人々が互いに助け合う複数のコミュニティー」については、従来からあるさまざまな組織というのがポイントで、ここには政府のほか教会や労働組合など、いわゆるセーフティネットとして機能するようなものも想定されているだろう。

 (2)の「安全なコミュニティー」は少々意味を取りづらい部分もあるが「誰でも世界を行き来できる」という部分も考え合わせると、シリアの内戦で欧州などに逃れた難民の例などをイメージしている可能性も思い浮かぶ(難民がスマホのSNSで移動ルートなどを知らせ合っていたことは既報の通り)。

 (3)の「情報が行き渡るコミュニティー」については「われわれを新しい考えに触れさせる」「共通の理解を築く」というところがポイントで、つまり後述する「フィルターバブル」で分断・分散してしまった人々――自分の聞きたい話だけを聞き、自分の信じたいことだけを信じる人たちをどうにか対話させる必要があるということ、同時に人が何かを判断する上で賛否両方の考えを踏まえた上で判断できる状況をつくることなども想起される。

 (4)の「市民=有権者が議論に参加するコミュニティー」というのは後に投票率の指摘もあるので主に政治的関心をもっと高めることにつながるもの、といったことかもしれない(ただし、公民権=civic rightのことなども頭に浮かび、civically-engagedが本当に意図するものはよくわからない)。

 (5)の「排他性のないコミュニティー」は文字通りの意味で、人種・性別・信条あるいは国籍などさまざまな違いはあっても互いになんとかうまくやっていくことを良しとする共同体、ということだろう。

 こうして並べてみると、Zuckerbergが望むコミュニティーの特性というのは、少し前までなら「ごく当たり前」のこと、たとえ建前で実現するのは容易ではないとしてもそれが「正しい」とされていたものばかりであるのに気づく。裏を返せば、そうしたことを改めてはっきりさせておかないといけないと感じてしまうほど、Zuckerbergが現状に危機感を抱いているとも解釈できる。

影響力と責任の新たな自覚

 米国ではトランプの大統領当選を機に、たとえばジョージ・オーウェルの「1984」やマーガレット・アトウッドの「侍女の物語」のようなディストピア小説が改めて脚光を浴びている。また最近では、ユダヤ人のコミュニティーセンターに対する脅迫(爆破予告)が急増といった話も報じられていた。

 さらに、不法入国した移民の強制送還が本格化する可能性が高まっていることを受けて、農場や飲食業で極度の人手不足が生じるとか、あるいは親と別れて米国内に取り残される移民の子供たちはどうなるんだ、といったニュースも見かける。

 そうした「嫌な感じ」のする話を見聞きしても、普通の立場の人間ならできることは限られている。大半が今まで通り自分の勤めに専念するか、せいぜい抗議集会に参加するくらいだ。しかし、約19億人もの人間にサービスを提供しているZuckerbergの場合はもちろん話は別で、できることもたくさんあると同時に、きちんと果たさなければならない責任もある。そうした影響力や責任の大きさに対する自覚が、この宣言文発表につながったのではないか。

 「Facebookはこれまで友達同士や家族をつなげることに専念してきた。それで築いた土台の上に、これからはコミュニティーの構築・運営に役立つ社会的なインフラを作っていくんだ」という一節がエッセイのなかにある。これは自分たちがいつの間にか手にしていた影響力の大きさにZuckerbergが改めて気づいたということの現れとも受け取れる。

 大統領選直後にZuckerbergが、Facebook経由で拡散した偽ニュースの影響について尋ねられ、「偽ニュースが選挙の結果を左右したとの考えはまったく馬鹿げている」と答えていたことなども、そう思える傍証のひとつといえよう。

 このエッセイ発表に触れた各記事のなかには、偽ニュースやフィルターバブルなどに言及しているものも多い。前者はトランプの大統領当選に一役買ったとされる「偽造ニュース(嘘の情報)」、後者は「ユーザーが反応しやすい情報だけをどんどん掬い上げてくる(反応が鈍いものは目に触れにくくする)アルゴリズム」のこと。

 これらは何もFacebookのサービスだけに限った問題というわけでもなかろうが、とくに米国民の情報入手源として並外れた影響力をもつようになったFacebookに対してその責任追求の矛先が向けられたのは意外なことではない。そうした問題への対処も当然自分の責任の範疇であると、Zuckerbergは感じているのだろう。

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