さて。シリコンバレーの経営者連中がおしなべて新政権に背を向け、反発の姿勢を示すなかにあって、特に2人の起業家の動向が注目される。共にTrumpの顧問役を買って出たUberのTravis Kalanick(CEO)、それにElon Musk(TeslaとSpaceXのCEO)の2人である。
2人がそれぞれどんな理由から顧問役を引き受けることにしたのかという点はよくわからない。Muskが「地球温暖化を食い止めるんだ」と言ってTesla(と同社に吸収したSolarCity)の事業をやっているのは周知の通りで、温暖化の危険を「中国の作り話」としてきたTrumpとは真逆の考えの持ち主と見られていた。またMuskが選挙戦中にTrumpについて「大統領の仕事には不適格("he was 'not the right guy' for the job")」とコメントしていたことなども報じられていた。
それでも、Muskの場合は手がける2つの事業がいずれも政府との関係に大きく依存している(SpaceXはNASAが顧客、Teslaの場合も補助金頼みの部分が大きい)ので、そこから変心の理由を推測するのはさほど難しくもない。それに対して、Kalanickのほうはこれまで政治の世界との関わりをあまり聞いたことがない人物だから、「中国進出の失敗に懲りて、今後のためにも後ろ盾を作っておこうと考えたのか」とか、「各地で行政などともめているUberのことを考えると、ここで最高権力者とのパイプを確保しておきたいと考えたのか」などというぼんやりとした可能性しか思い浮かばない。
それとは別に、2人ともこれまでにいろんな障害を乗り越えてやってこれた人物だから、「Trumpくらいはどうにでもなる」とか「虎穴に入らずんば虎子を得ず」などと考えているのかもしれない。だが、Trumpが選挙に勝つための方便として使っているように見えたさまざまな公約を、本当に、しかもこれほど素早く実行してくると予想していたかどうか。そのあたりのことはやはりよくわからない。
トップがTrumpに接近したことで、Uberの事業には早速ネガティブな影響が出始めている。競合相手のLyftが、入国制限を人権侵害として戦う姿勢を示した人権擁護団体、アメリカ自由人権協会(ACLU)への資金援助を表明したのに対し、Uberのほうは比較的控えめな対応(大統領令で影響を受けるドライバーへの援助など)しか打ち出さなかったとして、同社のサービス利用を手控えようという動きが広まっていたという(”#DeleteUber"=「Uberアプリを削除しよう」というハッシュタグ付きでUberボイコットのメッセージが広がった)。
この週末には米App Storeのダウンロードランキングで、Lyftアプリの順位が39位から4位まで急上昇し、Uberアプリのそれを上回ったという話も出ていた。Kalanickは「2月3日にワシントンDCである会合で、Trumpと直接この問題を話す」などとしていたようだが、Uberのユーザーには無視されたのかもしれない。
Elon MuskのほうにはTwitter経由で「Trumpなんかとは手を切った方がいい。あなたのせっかくの業績に傷がつくから」といったメッセージも送りつけられている(そう言っているのが、FacebookのAI研究責任者として知られるYann LeCunという点が目を引く)。
@elonmusk you are an advisor to Trump. Quit. If you stay, fight and know that this will hurt your legacy regardless.
— Yann LeCun (@ylecun) 2017年1月29日
またごく少数のようだが、同社が2017年中の納車開始を目指す「Model 3」の購入予約をキャンセルする動きも一部の申込者の間で出始めているという。Musk自身は「入国制限はいくらなんでも酷すぎる」として、内容修正案のアイデアをTwitter経由で募集してさえいるのに、なんとも気の毒なことである。
各企業の経営者にとって、Trump政権への対応がある種の「踏み絵」となっている。政権発足前には、主に自動車業界の各社が「メキシコ」という踏み絵をTrumpに踏まされていた。そして今、一般消費者を相手にする各社は「トランプ政権にどこまで積極的に協力するか否か」という踏み絵を踏まされている。なんとも面倒かつ嫌な時代になったものである。
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