半月ほど前の話になるが、Appleでソフトウェア開発ツールの開発を担当していたエンジニアリング担当の幹部がTeslaへの移籍を発表し、一部で話題になっていた。Chris Lattnerというこの人物、Apple在籍中(2005年7月~2017年1月)には、プログラム言語「Swift」や開発ツール「Xcode」など比較的よく知られたソフトウェアの開発を率いていたというから、この移籍の話題が注目を集めたのも不思議はない。
それと同時に「macOSやiOSのアプリ開発ツールなどを専門としてきた人物の知見や経験が、TeslaのAutopilot(自動運転車機能)用ソフトウェア開発にどう活かされるのか」という部分がよくわからず、ぼんやりとした疑問として残っていた(これがたとえば「マシンラーニングの責任者が Autopilot Software担当責任者に就任」とかであったなら、疑問も持たずになんとなく読み流していたかもしれない)。その後、このあたりの事情を知る手がかりとなりそうな情報を見かけたので、今回はそのことを記す。
Lattnerの業績に関して「LLVM」というコンパイラ基盤や「Clang」というコンパイラに言及している記事を複数見かけたが、その一つであるWIRED記事には、Tesla製車両への搭載が始まっているNvidia製GPU(車載スパコン「DRIVE PX 2」に含まれるグラフィックプロセッサのことだろう)に触れて、「こうしたハードウェアを制御するまったく新しいソフトウェアを開発する必要がTeslaにはある」との一文がある。
同記事によると、現行のNvidiaのGPUを動かしているソフトウェアもLLVMベースのものだそうで、同技術に明るいLattnerのようなエンジニアを持ってすれば、Teslaは独自にカスタマイズした機能、特に「Tesla S」の死亡事故(2016年春)をきっかけに袂を分かったMobileyeのカメラ・画像認識技術を代替する機能を同社製車両に実装することが容易になるといった可能性を示唆している。
さらに面白いのは、1年ほど前にAMDからTeslaに移籍していたJim Kellerという幹部(Autopilotのハードウェアエンジニアリング担当バイスプレジデント)に言及した箇所。Kellerは、Appleが2008年に買収したプロセッサ開発ベンチャー、PA Semiの主要メンバーの1人だが、同社の技術がAppleのiOS端末用SoC(いわゆる「Aシリーズプロセッサ」)になったことは既報の通り。
またKeller自身もApple在籍中には「A4」「A5」SoCの開発に携わっていたという。そんなKellerやその仲間が持つプロセッサなどのハードウェアに関する知見と、Lattnerの有する(低レベルの)ソフトウェアの知見を組み合わせれば、Teslaは自前のAI関連技術を開発できるというのがWIRED記事の指摘で、また将来的にはTeslaが自前のチップを開発する可能性もあると記している(実際にTesla社内でそういう動きがあるかどうかは外部からは知りようもないとの但し書きが付されているが)。
AppleによるPA Semiの技術獲得=独自SoCの開発の重要性というのはすでにいろんなところで指摘されてきていると思う。今回の人材獲得のニュースからは、Teslaが自動運転の基幹技術であるAutopilotに関して、そういう低位のレベルからアプローチしようとしていることが伺えて興味深い。
Recode記事などによると、Teslaに移るLattnerは最近ゲスト出演してたポッドキャストの中で自分のことを「クルマ自体にはあまり関心のない人間(”un-car person”)」と称していたそうで、同氏の関心の対象はもっぱら「移動に関する問題解決」のほうにあるようだ。また自動運転車の実現については「とても大きな技術的問題で一朝一夕に解決できるわけではないが、それでも10年以内に間違いなく可能になる」との見方をLattnerが示していたともある。
iPhoneに使われている技術がそのまま自動運転車に応用されるというわけでは勿論ないだろうが、時代の流れを感じさせる人材の動きとして改めて取り上げてみた次第である。
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