人工知能(AI)や機械学習、ディープラーニングを活用する手段として、ユーザーの入力した言葉に対して的確な答えを返したり、AIの質問に答えるだけで適切な対応をしたりする「チャットボット」。主にデジタルマーケティングの領域で、顧客とのコミュニケーションを円滑にしたりエンゲージメントを強化したりするものとして注目を集め始めているが、ビジネスの現場においてはどのような活用シーンが生まれているのだろうか。
朝日インタラクティブが主催した「CNET Japan Conference 2016 チャットボットで加速するビジネスとコミュニケーション」において、L is B(エルイズビー)の代表取締役である橫井太輔氏が登壇し、「ビジネス現場で本当に使えるチャットボット概論!」と題した講演を実施。2014年から提供しているチャットボット開発環境「daabSDK」の事例を紹介しながら、ビジネス現場におけるチャットボットの活用法について解説した。
橫井氏は、ジャストシステムにおいてセキュリティソフト「カスペルスキー」の日本導入になどに携わったのちに2010年に起業。感情解析エンジンでTwitterの内容を解析してコミック化する個人ユーザー向けアプリ「Feel on!」や、NTT東日本やKDDIといった大手企業向けのシステム開発を受託開発で手掛けてきた。
そして、その中で蓄積されたノウハウを元に、ビジネスチャットツール「direct」とチャットボット開発環境「daabSDK」を生み出した。チャットボットが注目される2年も前のことである。きっかけは、同社が手掛けていた受託開発だったと橫井氏は振り返る。
「受託開発によってさまざまな企業向けにアプリケーションを開発する中で、2012年頃から新しいニーズが生まれてきた。ちょうどその頃はスマートフォンやタブレットが社内に導入されたときだったが、メール、電話、乗換案内や地図といったアプリの利用に留まり、上手く業務の中で使いこなせていなかった。仕事(業務効率化)に役立つアプリがほとんどなかった」(橫井氏)。
企業はこれまで長い時間を掛けて業務環境のICT化を推進してきたが、それは主に社内のオフィスワーカー向けにPCでの活用を念頭に置いたものだ。スマートデバイスが普及したことに合わせた業務環境の対応は遅れ、社外で業務をするフィールドワーカー(営業担当者や社外の現場担当者)の間には、LINEやFacebookといった一般向けアプリを隠れて使用する“シャドーIT”が蔓延することになる。「PC向けに作られたものがモバイルに対応している場合と、モバイル専用に開発している場合では、意味は全く異なる。現場の人たちは使いこなしていない」(橫井氏)。
同社は、こうした課題に対して2013年にビジネス専用のチャットツール「direct」をリリース。フィールドワーカーのコミュニケーションを円滑化することに特化したモバイル専用サービスを生み出し、建設や小売、医療・介護といった企業700社以上に導入していったという。「小売大手のドン・キホーテでは、directを通じて情報共有を円滑にすることでスピード経営を実現している」(橫井氏)。
こうして拡大していったフィールドワーカーの業務支援をする中で、“連絡手段としてだけではなく、さらにモバイルを活用したい”という声が多く聞かれるようになり、そのニーズに応える手段としてチャットボット開発環境「daabSDK」が誕生したのだという。橫井氏は実際に開発されたチャットボットを取り上げながら、フィールドワーカーの現場でチャットボットがどのような効果を生み出すのかを紹介した。
「daab(direct agent assist bot)SDK」は、社内のSaaS/PaaS、業務システムと連携したチャットボットを開発できる開発環境だ。このチャットボットで会話をするだけで、さまざまな業務処理を完了させられることが大きな特徴で、フィールドワーカーの業務負担を大きく軽減できるという。
橫井氏は「最も多い活用シーンは、営業担当者のワークスタイルの変革だ」と紹介。多くの営業担当者は、日中は社外を忙しく動き回り、遅い時間に帰社して営業日報をまとめる。長時間労働が慢性化する要因にもなっている。そこで、アポイントの間のスキマ時間に簡単に日報をまとめられるソリューションとして、「対話型日報作成ソリューション(日報ボット)」を開発したのだという。
具体的には、チャットボットとトークルームを開いて、業務内容、所感、目標達成度評価などあらかじめ用意した質問に答えていくと、その回答を自動的に日報のフォーマットにまとめ、業務環境に保存してくれるというものだ。これにより、営業担当者は効率よく営業内容の社内共有ができるようになり、直帰できることでの業務時間の短縮にもつながるという。
一方で、同じ発想で現場の業務効率を改善した開発事例が、主に住宅メーカー向けに開発した「現場調査ボット」というものだ。これは建物の建設予定地の調査をする社員が、チャットボットのナビゲーションに沿って赴いた現場の情報を答え、撮影した写真を送信。それだけで、業務システムにデータを保存できるようにしたものだ。「遠い現場に行って帰ってきて、社内で写真を整理して業務システムに保存、では1日仕事になってしまう。それを現場に行ったら10分で完結できるようにした」(橫井氏)。
また、建設業向けのソリューションでは、さまざまなタスクに忙殺される現場担当者が、やるべきタスクをチャットボットに語り掛けるだけでToDoリストを自動的に生成し、タスク管理を効率化できる「ToDoボット」や、現場写真を撮影してコメントを付けてチャットボットに送信するだけで現場写真の報告・管理を効率よくできる「写真管理ボット」などを提供しているという。「チャットボットはBtoCだけでなくBtoBの領域でも相当な可能性を秘めている」(橫井氏)。
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