そのライブストリーム動画の長さは、わずか1分。フットボール競技場と同じくらいの大きさの灰色のプラットフォームが大西洋上のどこかに浮かんでいる。画面のやや右上から高さ14階建て相当のロケットが下降してくる。ロケットは後端から下降して、炎を出しながら、着陸用プラットフォームに向かって進む。このロケットはSpaceXの「Falcon 9」で、今まさに歴史的な偉業を成し遂げようとしている。
底部から4本の着陸脚が展開し、Falcon 9は垂直状態を保ったまま、軟着陸した。
SpaceXはFalcon 9ロケットの無人船への着陸を過去に4回試みている。しかし、ロケットが無人船に着陸し損なったり、着陸時の激しい衝撃でロケットが倒れて爆発したりして、失敗に終わっていた。
SpaceXの最高経営責任者(CEO)を務めるElon Musk氏はその後の記者会見で、「それは切手の上に着陸しようと試みるようなものだ。陸地への着陸より、空母への着陸に近い」と述べた。SpaceXは2015年12月、フロリダ州ケープカナベラルの陸地で同社が製作したパッドへの着陸に1回(のみ)成功している。
4月の初めての洋上着陸以来、着陸が成功することもあれば、失敗することもあった。「宇宙技術に革命を起こす」SpaceXの取り組みにとっては、そのすべてがマイルストーンだ。SpaceXが着陸を試みるたびに、企業は成層圏の向こうにビジネスチャンスを見出し、宇宙飛行産業は商業化に近づく。
SpaceXは宇宙市場で最も有名な企業かもしれないが、この市場には、ほかにも多くの企業が参入している。AmazonのCEOのJeff Bezos氏が創設したBlue Originもその1つで、独自のロケットを打ち上げて、着陸させた実績がある。Richard Branson氏のVirgin Galacticは、搭乗券に25万ドル払うことをいとわない乗客のための「世界初の民間宇宙旅行会社」と自社を宣伝している。Vector Space Systemsが目指すのは、小型衛星の打ち上げだ。さらに、Moon Expressという新興企業は月への飛行を米政府から許可(PDFファイル)されている。これらの企業の目標はそれぞれ異なる。
Vector Space Systemsは、顧客が同社の「乗り物」を予約してオンデマンドで商業衛星を打ち上げられるようにしたいと考えている。Moon Expressは月の採掘、衛星の修理、宇宙ゴミの掃除を想定している、と共同創設者のNaveen Jain氏が8月にTIMEで展望を語っている。Blue Originのウェブサイトによると、同社は「宇宙で人間の存在が永続できるようにする準備をしたい」と考えている。それには、Bezos氏が6月に言及した、重工業の地球外への移転から、ほかの惑星への植民まで、さまざまなことが含まれる可能性がある。
そして、Musk氏は火星に行きたいと考えている。
それは戯れ言ではない。米航空宇宙局(NASA)の協力のもと、SpaceXは2018年5月にカプセル型無人宇宙船「Red Dragon」を火星に打ち上げる予定だ。シリコンバレーで先見性のあるリーダーとして最も有名であるMusk氏が2016年6月に述べたところによると、同氏は2025年までに有人宇宙船を火星に着陸させて、その後、26カ月ごとに新しい補給品とさらなる入植者を火星に送るつもりだという。
「文明を持続させるためには、そうしなければならない」(Musk氏)
しかしそれは、SpaceXが今後、大きな挫折に直面しないという仮定のもとでの話だ。同社は既に2つの大きな挫折を経験している。2015年6月、国際宇宙ステーション(ISS)への貨物を搭載したFalcon 9は、打ち上げから間もなくトラブルが発生して機体が粉々になった。2016年9月には、打ち上げ予定日の2日前の定期試験中、爆発によって、Falcon 9と積荷の衛星が破壊された。NASAは爆発が発生した日に声明を出し、この「事件は、NASAが打ち上げに関与していないとはいえ、宇宙飛行が極めて困難な取り組みであることを思い出させてくれる。しかし、われわれのパートナーはすべての成功と挫折から学びを得ている」と述べた。
この爆発事故では、Facebookがアフリカ僻地でのインターネットサービス提供に使用する予定だった衛星も破壊された。
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