朝日インタラクティブはこのほど、ビッグデータやAIなどを活用した「Real Estate Tech(不動産テック)」と呼ばれるビジネスの変革が著しい不動産ビジネスに焦点を当てたイベント「テクノロジが創世する不動産産業の新潮流 ~Real Estate Tech 2016 Summer~」を開催した。
「リアルとITテクノロジの融合が業界全体の価値を高める」と題した講演では、不動産仲介業大手のハウスコム代表取締役社長である田村穂氏が、不動産業界の立場から見たとリアルな不動産業とITテクノロジの融合について、その必要性を同社の取り組みを交えながら提唱した。
田村氏は冒頭、「私たち(不動産業者)が持っているのは、リアルな店舗。その価値を高めたいと考えている。そこではテクノロジが味方になってくれる」と今回の講演テーマについてひとことで表現した上で、自身が出張で旅客機を使うことを引き合いに出して、こんな話をした。「私は(東京から)福岡に行く際に席選びに人一倍のこだわりを持っている。選ぶのは、富士山や京都の街が一望できる窓際の席だ。この席に座るととても気分が良く仕事にもやる気が出る」。
なぜ、田村氏はこのような話をしたのか。それは、この旅客機の座席の話が現在の不動産賃貸仲介業のビジネスモデルと酷似しているからだというのだ。
「電話で“部屋は空いていますか?”と聞くと、店舗のスタッフは“空いていますよ。とにかくお店に来てください。”と答える。いざ店舗に行くと、店舗のスタッフは“物件は早い者勝ちですよ”と顧客に伝える。賃貸物件は自由席なのか?今の不動産賃貸はこんなイメージだ」と田村氏。いい部屋を借りようとしてお店に行っても、物件は早い者勝ち。もしも埋まってしまっていたら、仕方がないから別の部屋で妥協する。借りた顧客はなんだか腑に落ちず、ストレスも感じる。これが不動産賃貸のリアルだというのだ。
田村氏は続ける。「だからどうという話ではない。こうして私たちはビジネスをしてきたということだ。では、私たち不動産賃貸のビジネスモデルは、このままで変わらずにやっていけるのだろうか。商店街の商店はコンビニになり、薬局はドラッグストアになった。世の中のビジネスはどんどん変化している。しかし、不動産業だけは変わっていない。これだけテクノロジがあふれる世の中になっても、私たちは変わっていない」。田村氏は、顧客のライフスタイルや情報流通経路はテクノロジによってどんどん変化している中で、不動産業のビジネスだけが旧態依然としている実態に対して警鐘を鳴らしたのだ。
では、不動産業界はなぜこれまで変わってこなかったのか。田村氏は、「顧客の行動を変えるような、サービスを変えるようなことが十分にできていないからだ」と説明。さらにその背景として田村氏は、顧客と営業マンに情報格差・非対称性がある点、あらゆる物件すべてにユニークネス(非同一性)がある点、人も情報もすべて店舗に集約させるというビジネスモデルが硬直化している点などの課題を挙げ、プッシュ型の営業に邁進するという不動産会社視点の姿勢に固執している点がこのビジネスモデルの硬直化を招いていると指摘した。
「しかし、私たちの業界だけが変わらないというのは可笑しな話だ。周囲のビジネスはテクノロジによって顧客の価値や行動を変え、変革を遂げている。私たち不動産業にも、AIなどのテクノロジを活用して課題を解決することで、変わっていけるのではないか。賃貸仲介業者は、物件の成約データというビッグデータを持っている。これを上手く活用できるのではないか」(田村氏)。
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