コグニティブを不動産事業にどう活用するか--IBM「Watson」導入事例をヒントに考える

 9月28日に開催されたイベント「テクノロジが創世する不動産産業の新潮流 ~Real Estate Tech 2016 Summer~」では、不動産ビジネスが最新テクノロジでどのように変貌するかというテーマを掲げ、「Real Estate Tech」プレイヤーが一堂に会した。

 ここでは、最先端の技術である人工知能(AI)を不動産業界でどう活用できるか考えるヒントとして、さまざまな業界で利用が始まっているAIの導入事例を紹介する。具体的には、日本IBMでグローバル・ビジネス・サービス事業コグニティブ・ビジネス事業推進室室長を務める中山裕之氏の講演「Cognitiveが切り拓く不動産業界の未来」の概要を取り上げる。

すでに始まっている「コグニティブビジネス」

 講演タイトルに含まれるCognitive(コグニティブ)とは、コグニティブ(認知)コンピューティングのこと。中山氏は、IBMのコグニティブコンピューティングシステム「Watson(ワトソン)」の能力や実際に使われている場面を解説し、コグニティブコンピューティングが可能にする世界を見せてくれた。

コグニティブビジネスはすでに始まっている、と話す中山氏
コグニティブビジネスはすでに始まっている、と話す中山氏

 ただし、IBMはWatsonをAIと呼んでいない。そもそもAIの定義があいまいなことと、Watsonは人間を凌駕するためのシステムでないため、コグニティブシステムと称している。あくまでも、モノのインターネット(IoT)端末のセンサやビッグデータなどから得た情報にもとづき、人間の質問に答えたり、意思決定を支援したりすることが目的だという。

 そのWatsonの活用だが、中山氏は「コグニティブビジネスはすでに始まっている」とする。コグニティブビジネスは決して未来の話でなく、アーリーアダプタはすでに取り組みを開始しているそうだ。その可能性の高さは、インターネットと同様だとした。

人間のように振る舞えるWatson

 Watsonはテキストや音声の形式で自然言語を受け付けて、その意図を理解し、相手の感情や性格を読み取れるという。さらに、画像を解析して、文字や図形の認識、人物の表情から性別や年齢の判定も実行できるとしている。音声を理解して文字に変換したり、文字を音声として発声したりすることも得意だ。

 IBMは、Watsonが人間のように振る舞うとするが、これでは漠然としていてイメージがつかめない。そこで、これまでWatsonがデモンストレーションした驚くべき例を2つ示そう。

 1つ目は、Watsonがテレビのクイズ番組で人間に勝った事例。Watsonは1964年から放送されている伝統的クイズ番組「Jeopardy!」の出題内容と回答を教え込まれたうえで、2011年2月に出場。その際、最多連勝記録保持者および累積最高賞金記録保持者と争い、“3者”がほぼ横並びの9割弱という正答率を達成しつつも、Watsonが優勝したのだ。

クイズ番組で人間に勝ったWatson
クイズ番組で人間に勝ったWatson

 2つ目の事例は、Watsonがある患者の疾病を一種の白血病と見抜いたもの。Watsonは2000万件のがん研究関連論文と1500万件を超える薬の情報などを“学習”し、患者の情報と照らし合わせたことで、的確な診断を下し、医師にしかるべき治療法を提案することに成功した。

国内でも100件以上の実プロジェクトが始まっているコグニティブビジネス

 IBMはこうした試験的な活用に取り組みつつ、2011年から2013年にかけて社内ベンチャー活動としてWatsonの商業化を準備してきた。そして、2014年にビジネスとしてスタートさせ、2016年2月に日本語版APIをリリースし、国内で利用できる環境を整えた。

 このAPIは20種類弱あり、Watsonの複雑な機能を大きく「Language(言語)」「Speech(音声とテキストの双方向変換)」「Vision(画像認識)」「Data Insight(データ洞察)」に分解して提供するものだ。ユーザーはこれらAPIを利用することで、工場で製品画像から不良品を除外する、肌の画像から皮膚がんとほくろを見分ける、人型ロボット「Pepper」に音声などで顧客対応させる、といった活用が可能になる。

PepperをWatsonに応用した事例
PepperをWatsonに応用した事例

 中山氏によると、こうしたAPIを使って開始されるビジネスプロジェクトの数は、9月時点で国内でも100件を超えたという。

 すでに実用化されている事業としては、技術系人材派遣サービスにおいて企業と技術者のマッチングスコア算出に応用され、企業との相性といったあいまいな条件も含めて最適なマッチングを論理的に提案できるようにした例がある。また、かんぽ生命はWatsonベースの保険金支払い査定システムを2017年に稼働すべく、試験運用を実施している。現時点で9割弱の査定自動化が可能なレベルに達したそうだ。

国内でも100件以上の実プロジェクトが始まっている
国内でも100件以上の実プロジェクトが始まっている

不動産は顧客接点プラットフォーム

 中山氏は、「企業に埋もれているダークデータを、経営に活用できるインテリジェンスに」変えるツールとしてWatsonを活用してほしいと話す。では、不動産業界でどう使えるのだろうか。

 不動産業界の特徴として、中山氏は「不動産が顧客接点プラットフォームとして無限の可能性を秘めている」点を指摘した。つまり、不動産は顧客に必ず触れるプラットフォームだというのだ。

 たとえば、自宅で音声対応アシスタントに話しかけ、外出時の服を提案してもらったり、オンラインショッピングしたりといった、家庭内コンシェルジュが活躍する時代がくるだろう。これを実現させるには、コグニティブ技術が欠かせない。これこそ、Watsonがもっとも得意とする領域である。

 最後に中山氏は、「(IT技術の進歩で)業界の垣根はどんどんなくなっていく」と述べ、不動産業界も他業界の取り組みを参考にして「今から将来を見据えてビジネスのゲームをスタートしていただければと思う」と結んだ。

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