9月28日に開催されたイベント「テクノロジが創世する不動産産業の新潮流 ~Real Estate Tech 2016 Summer~」では、不動産ビジネスが最新テクノロジでどのように変貌するかというテーマを掲げ、「Real Estate Tech」プレイヤーが一堂に会した。
最新テクノロジの活用例として、不動産業界ではモノのインターネット(IoT)を使う取り組みがすでに登場している。ライナフがインターネット対応スマートロック「NinjaLock」を採用して提供する、無人内覧サービス「スマート内覧」である。当記事では、ライナフ代表取締役の滝沢潔氏が同サービスを解説し、関連サービスから見た賃貸不動産ユーザーを分析するなどした講演「IoTを活用した無人内覧サービス『スマート内覧』」の概要を取り上げる。
賃貸事業における内覧とは、顧客が検討中の物件を実際に訪れ、部屋の内部などを確認すること。不動産業者は施錠している部屋に顧客を入れるため、顧客に同行するか、営業所などで顧客に鍵を貸し、内覧終了後に返却してもらう必要がある。
このやり方は、同行や鍵の受け渡しで時間調整が必要になるなど、業者と顧客の双方にとって時間と手間のかかる作業だ。ライナフは、自社開発したNinjaLockを利用することで、内覧の省力化を図った。
顧客はサービスサイトにアクセスして希望する部屋の内覧を予約すると、業者に立ち会ってもらったり業者から鍵を借りたりすることなく、好きな日時に自分のスマートフォンで鍵を開けて部屋に入れる。室内には専用タブレットが置いてあり、顧客自ら操作して物件情報が確認できる。さらに、タブレットから管理会社に連絡し、疑問点を確認することや、契約を仮申し込みするといった操作も可能だ。
業者は、オフィスにいながら施錠状況の確認、タブレットのカメラを通した室内の目視といった機能が使える。スマートフォンを持っていない顧客のために、鍵の遠隔開閉もできるようになっている。もちろん、予約状況、開閉履歴といった情報も管理画面から取得できる。
ライナフはこうした「内覧業務の一括管理サービス」(滝沢氏)を提供することで、業者にとっても顧客にとっても面倒な内覧を省力化、効率化している。
スマート内覧は、三菱地所ハウスネットなどが2016年2月に一部物件で試験運用を開始した。同社は、10月より「パークハビオ」物件をリブセンスの賃貸情報ポータルサイト「door賃貸」に掲載し、スマート内覧と連携させたインターネット予約および無人内覧サービスを拡大していく。
三菱地所ハウスネットで賃貸企画部部長を務める篠原靖直氏は、仲介業者の鍵取りが不要になり、いつでも顧客を案内できるため、仲介業者の利便性も高く好評だと話した。また、顧客だけで内覧する際の破損や盗難については、カメラでいつでも監視できる効果か、今のところ問題なく運用できているという。
door賃貸を運営するリブセンスの不動産ユニットdoor賃貸プロダクトグループグループリーダーである澁谷拓氏は、この3年で賃貸ユーザー層が大きく変化し、業界を取り巻く環境が1年でガラッと変わってしまうと述べた。具体的には、door賃貸のスマートフォン向けサイトを利用するユーザーが毎年10%のペースで増えているのに対し、電話で問い合わせするユーザーが3年間で約40%も減少したそうだ。
ちなみに、現時点のアクセス状況は、スマートフォンなどのモバイル端末が68%を占め、残り32%がPC。スマートフォンの普及率が頭打ちになっているにもかかわらず、賃貸ポータルの世界ではまだ伸び代があるらしい。また、ユーザーが問い合わせた物件を契約する成約率は、以前より上昇して約60%あるという。
このようなデータから、澁谷氏は現在の賃貸ユーザーに以下の傾向があると分析した。
講演の最後に、3氏は今後の部屋探しがどうなるか意見交換した。
まず、手間なく探したいユーザーと、不動産業者と話したいユーザーに2極化するものの、実際に物件のようすを確認したいという希望があるはずなので、内覧はなくなることがないと考えられる。
ただし、スマートロックを活用するスマート内覧のようなサービスだけでなく、業者の担当者が物件に行ってタブレットなどで内部のようすを遠隔地の顧客に見せるサービスや、顧客が仮想現実(VR)アプリを使ってまるで現地にいるかのように感じられる内覧サービスへと広がると見込む。これにともない、賃貸物件紹介サイトに動画やVRデータが掲載されるようになり、コンテンツリッチになると予想した。
現在の問題としては、スマート内覧の導入によって、内覧にともなう鍵の貸し出しや立ち会いなどの業務量は削減できつつあるものの、全体としては、物件や契約条件に関する問い合わせ対応が減少せず、大幅なコストカットにはつながっていない点が挙げられた。賃貸管理業者として、物件や契約条件に関する詳細な情報を保有してはいるものの、それをサイトに掲載するのに必要な労務コストが大きく、タイムリーに多くの情報を入力できないため、結果的に問い合わせにつながってしまうのだという。
このような悩みは、当イベントの別の講演「Cognitiveが切り拓く不動産業界の未来」で紹介された、人工知能(AI)技術をベースとするIBMのコグニティブコンピューティング「Watson」で解決できる可能性がある。最新テクノロジが不動産ビジネスにどういかせるか、アンテナを常に高くしておこう。
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