こうした課題意識に立ち、ハウスコムはこれまでテクノロジを活用した新たな試みをしてきたという。田村氏はこの試みと効果、そして今後の構想について説明した。
同社が行った試みは、人工知能を活用した「AI物件検索」と「AIチャット」の導入だ。AI物件検索は、ウェブサイト上で顧客がいくつかの質問に答えると、物件データベースから最適な物件をレコメンドするというもので、AIは経験を重ねるごとに学習し、レコメンドの精度を上げていくのだという。AIのベースになっているのは、年間7万件というハスコムの成約データ5年分だ。「AIはまだ人間に例えると1歳程度。しかし、このレコメンドによって物件探しのインスピレーションが生まれるのではないか」と田村氏は説明する。
一方、AIチャットは通常メールでやりとりする顧客と担当者のコミュニケーションをチャット形式にするという試みだ。ただ、チャット形式では担当者は離席も我慢してチャット画面で顧客対応をしなければならない。そこで、顧客からの簡単な質問にはAIが24時間自動的に応答して回答を返すという仕組みを導入したのだという。これによって顧客対応の効率化が実現し、営業時間外でも顧客対応を行うことで満足度を高めることが実現したのだそうだ。
「テクノロジを活用して顧客に寄り添うことができるようになれば私たちの仕事を変えることができるかもしれないという思いでシステムを導入した。その結果、AI物件検索を導入してから、ウェブサイトからの問い合わせ件数が対前年比170%の成長まで実現した。また、AIチャットを導入した結果、初回来店率、再来店率が前年比で飛躍的に向上した。簡単なやりとりでも顧客の検討を支援して来店の動機付けを実現したことが証明された」(田村氏)。
続いて田村氏は、将来に向けた新たな試みを紹介した。それは、顧客の問いかけに対して感情を加えた発話データを返答する「A.I. PET(アイペット)」という構想だ。AIチャットでは問いかけに対して的確な答えを返すことを主たる目的にしてきたが、このA.I. PETでは問いかけに対してその文脈に応じた感情を込めた返答を返し、顧客との間に情報のやりとりに留まらない“感情のつながり”を生み出そうとしているのだという。AIのベースとなるのは膨大な対話データで、現在開発を進めているのだそうだ。
田村氏は最後に、このA.I. PETの開発をはじめとするテクノロジの活用を通じて目指すものについて語った。「私たちの営業活動の目的は店舗に来てもらうことではなく、物件に実際に触れて体験してもらうこと。物件には、実際に触れなければわからない豊かな情報がある。この豊かな情報を、テクノロジを駆使したり、人間性を磨いたりすることで多くの人に届けられないものか」と田村氏。その上でリアル店舗は、地域に密着してその地域でしか収集できない豊かな情報を集め、その地域の玄関となることが重要な役割であると説明した。
「地域の豊かな情報をどのように集め、どのように伝えていくのか。そのサポートしてテクノロジを活用し、将来的にはリアルの営業活動をサポートする“未来のリアルター”としてロボアドバイザーを実現できるのではないか。とはいえ、私たちはリアルな店舗と膨大なデータは持っているが活用の仕方を十分に知らない。多くの企業、学校などとパートナーシップを組み、業界全体で活用できるようなオープンイノベーションを生み出していきたい」(田村氏)。
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