日米の倉庫会社に見る、IT化の社会的インパクト

月森 正憲(寺田倉庫)2016年10月26日 08時00分

 倉庫会社はアナログ産業の典型例のような業態です(ここでのアナログ産業とは、前記事の通り、インターネットを通じてヒトと直結していない領域を指します)。規模の経済が定着し、イノベーションが起きなさそうなイメージがあるかと思います。しかし、倉庫業でも新たなIT化が進み、今までになかったようなビジネスモデルが国内外で生まれつつあります。

 手前味噌ですが、2012年から開始し、現在では計13社との提携にまで至った、当社、寺田倉庫の「MINIKURA」もその1例と言えるかもしれません。グローバル都市における倉庫業の新潮流を紹介します。

倉庫会社のIT化の社会的インパクト

 住居やオフィス、工場の最適な空間づくりを下支えする倉庫は、古くは縄文時代の高床式倉庫など、私たちの人間社会にとって欠かせない存在でした。現在、倉庫だけで2兆円、物流全体では約19兆円におよぶ一大産業に成長しています。

 その一方、IT化による「情報流通」でビジネスのスピードが高まる今、単なるモノを管理し、運ぶといった「モノ流通」とでは差が開き、倉庫に代表される物流のIT化の重要性は高まっています。厳密に言えば、今までも多くのITを活用し、業界は進歩してきましたが、いまだ差が開いているからこそ、IT化による伸びしろの大きい産業とも言えます。

 例えば、圧倒的な量の在庫を抱えるIT会社「Amazon」は実社会での影響力を日に日に高めています。もし今、Amazonがなくなったら何億人という方が困るでしょう。すぐに届くということがこれほど嬉しいことかと私も常に感心させられます。だからこそ、私はITによる倉庫業のイノベーションにFinTech以上の可能性を感じ、ロジスティックス(保管や輸送など物流)とテクノロジーから「LogiTech」なる造語を提唱し、オウンドメディアまで運営しています。

 では、倉庫業のIT化はどのようなレベルまで進んでいるのでしょうか。業界の最前線にいる立場から、倉庫会社における3つのIT化事例を紹介します。

倉庫会社のIT化の4事例について

(1)オムニチャネル化を実現する倉庫管理システム(WMS)

 スマホネイティブな今、企業側は生活者の生活動線に合わせて、あらゆる(オムニ)販売チャネルを統合し、データや商品を滞りなく流通させる必要があります。そして、倉庫業もそれに対応するため、倉庫管理システム(WMS)の進化を通じて動き始めております。

 これまでの倉庫事業者は、自社の倉庫拠点内における最適な管理システムだけを持てば良かったのかもしれませんが、これからは(自社、他社問わず)倉庫拠点を結び、且つ、店舗、EC、顧客までも一元管理できる仕組み、システムが求められてきます。現に、それを実現している倉庫事業者も登場し、彼らはクライアントのマーケティング活動にも踏み込み始めています。

(2)商品・オペレーション管理委託のオープン化

 多くの成功しているIT企業の共通点に、自社のブラックボックスを開放して、他社と協働するオープン化があります。そして、オープン化にはいくつか手法があるのですが、その1つがAPIです。

 APIは、FacebookやGoogleなどのIT企業がよく活用する技術の1つで、他企業に特定のプログラムやデータを提供して、1社ではなく複数社でサービスを展開する体制づくりのための規約です。エンドユーザーのリクエストを直接受ける倉庫オペレーションAPIの活用で、倉庫や物流機能を持ってない会社でも、商品や物流オペレーションの管理ができるようになる(つまり倉庫を持てる)のがこの利点です。

 実は、私が担当するMINIKURA事業はこのAPIを活用して、ファッションレンタルやアウトドア用品レンタル、CtoCコマースなど約13社との共同サービスを提供しています。

 また、EC運営企業と倉庫会社をつなぐ物流プラットフォーム事業を展開する「オープンロジ」は、誰でもシンプルに機能化された仕組みを使えるようにすることで、出荷作業にかかる負担やミスを大きく削減できるようにしているそうです。

(3)倉庫ロボット

 倉庫業の新たなIT化と聞いてすぐにピンと来るのはこの「倉庫ロボット」かもしれません。数年前にSNSで話題になった無人倉庫などが代表的なもので、作業の効率化や倉庫容積の削減などのメリットをもたらします。何よりロボットなので24時間稼働が可能になります。

 倉庫ロボットの活用においては、米国ではやはりAmazonが、日本では家具小売り最大手の「ニトリ」が先行しています。Amazonは米国スタートアップの「KivaSystems」を2013年に買収し、ニトリはノルウェーのシステムを2016年に導入する形でそれぞれ開始しました。前述の2つのIT化を、このロボットが支えることで、画期的な倉庫オペレーションを可能にしています。

(4)予測出荷システム

 そして、最先端領域はこの予測出荷システムではないでしょうか。文字通り、顧客が注文する前に、データ分析を通じた予測にもとづいて商品を先に出荷し、注文を行った時点で既に最寄りの拠点まで商品の配送が完了しているシステムのことです。日本より配送時間が掛かる米国、そして顧客至上主義者のAmazonだからこそ発想されたとも言えますね。ちなみに、このシステムはAmazonの特許です。

 なぜこのようなことができるのかというと、レコメンド機能に代表される、彼らの高度な検索アルゴリズムに答えがあります。過去の注文履歴、閲覧ページ、そして購入ボタンの上のマウスカーソルの滞在時間といったビッグデータから顧客の趣味や嗜好を探り、それに合う商品を提案する技術を通じて、高精度での予測を実現しています。これによって実現された当日出荷・当日到着は、顧客を虜にする最強のマーケティングツールと言えます。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]