世界がITテクノロジによって日々進化する現在、主戦場はPCやスマートフォンの中ではなく街や都市に移りつつあります。例えば、インターネットとリアルタイムに繋がったGPS情報は、そこにタクシーや宅配便を瞬時に呼び出すことができ、人やモノの移動を劇的に変えていきます。
本連載では、今までインターネットに繋がっていなかったモノや都市などを非IT領域とし、そこで起こるイノベーションをITテクノロジやビジネスモデルの文脈で紹介します。
連載初回は、時価総額が8兆円を超え、“アナログ産業のIT化”を語る上で外せないライドシェア事業者の「Uber」を軸に、世界が評価するITテクノロジの仕組みについて考察します。
Uberについて、本誌の読者であれば知らない人はいないでしょう。2016年2月時点、世界68ヵ国400都市へ進出している、世界最大のライドシェア事業者です。その驚異的な成長ぶりから、タクシー業界の破壊的イノベーターとも呼ばれることもあります。
その成長の代償で、2016年の冬に、サンフランシスコ最大のタクシー会社が破産しました。裁判所に提出された書類には、破産の理由として、多くの事故関連の請求・責任や利用客数の急減のほか、Uberをはじめとした新興のアプリベースのライドシェア事業者との競争や、それらの企業にドライバーを引き抜かれていることが挙げられていました。
Uberは創業6年で、100年以上の歴史を持つGMやフォードの時価総額を抜くまでに成長した、世界最大のユニコーン企業(時価総額10億ドル以上の未上場企業)です。ちなみに、日本国内には時価総額8兆円を超える企業は、トヨタ、NTTドコモ、NTTそしてKDDIの4社しか存在しません(2016年8月時点)。この点から見ても、Uberという企業の驚異的な成長には目を見張るものがあります。
今までUberについて語るとき、世界各地でのトラブルや、アプリによる卓越したサービスが中心的に語られ、なぜ彼らのビジネスモデルやITテクノロジの活用が8兆円と評価されるのかといった、事業戦略側面での議論は少なかったように感じます。
しかし、新しい製品を作るよりも、新しいビジネスモデルを創る方が競争力となる今、アナログ産業においてITテクノロジを駆使し、驚異的な成長を遂げたUberから学ぶことは多いと考えます。つまり、IT化のインパクトを素直に理解できるはずです。
それでは、どのようなITテクノロジを彼らは仕組みにして、今だけでなく未来の競争力を手に入れたのでしょうか。それでは、まず彼らが見据えているであろう、そして多くの大企業が注視している未来社会について目を向けてみましょう。
まず結論から言うと、Uberは配車アプリではなく、実態は都市内の人とモノの移動をつかさどるインターフェースだと私は考えます。いちユーザーとして見れば配車アプリと見ることもできますが、Uberが長期的に目指しているのは、自動運転車が普及する未来都市において、人とモノの移動をすべるプレイヤーだと思います。現に、ロボティックスに優れたカーネギーメロン大学から40人もの研究者たちを引き抜いて、自動運転の開発を加速させていますし、同社CEOのトラヴィス・カラニック氏は、「自動運転車が実用化されれば全てのUberを自動運転車に置き換える」と2014年の時点で公言しています。
もしそのようなことが実現されれば、タクシー業界に留まらず、交通機関も、駐車場も、宅配事業者も、自動車保険も、かなり大きな影響(痛手)を受けるでしょう。もちろん、巨大産業の自動車産業もその1つであることに違いはありません。DoorToDoorでの移動が最速で最安で実現されるようになれば、自動車を持つことは無意味に感じてしまうかもしれません。よって、最大手の自動車メーカーのトヨタがUberと提携したのも納得できます。
自動運転社会の到来で、まるで20世紀になって街から馬が消えたように、私たちが見てきた都市の風景が劇的に変化するでしょう。都市内での人やモノの移動の概念を根底から覆すポテンシャルを秘めている、言い換えれば、無人タクシーが水道水のように使える未来社会の実現を可能にしそうなのがUberなのです。このキーマンに高い評価がつくのは当然かもしれません。
それでは、どのようなITテクノロジを彼らは仕組みにして、今だけでなく未来の競争力を手に入れたのでしょうか。私なりに3つの仕組みに注目しています。
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