日米の倉庫会社に見る、IT化の社会的インパクト - (page 2)

月森 正憲(寺田倉庫)2016年10月26日 08時00分

20億円の出資を集めたNYの倉庫会社のビジネスモデル

 米国の倉庫市場は、2012年の2.6兆円から2016年の段階で3.6兆円に到達すると予測される成長市場です。そんな中、次世代の倉庫業の担い手として期待を集めるのが、ニューヨークを拠点に2013年の創業から現在まで2760万ドルの資金調達に成功している「MakeSpace」。米国では小型倉庫レンタルをセルフストレージと呼び、複数のスタートアップが存在しますが、最有力企業がこのMakeSpaceです。

「MakeSpace」
「MakeSpace」

 ユーザーはiPhoneアプリからオーダーすればMakeSpaceがユーザーの代わりに即日で引き取りし、全ての品物の写真を撮影してくれるので簡単にアプリ上での管理が実現します。「倉庫にわざわざ行かなくてもいい」「何を収納したのかいつでも分かる」という2点はとても便利です。

 当然、このMakespaceの急成長にもITが関わっています。ただ、スタートアップということであまり情報は公開されていませんが、彼らが注力しているのは、最小コストでの配送ルートの構築や、物流ハブ拠点の最適化などの運送面や、ユーザーが撮影した商品の適切に把握・分類する画像処理技術などの保管面といったところです。ただ、スタートアップが地価の高いニューヨークで倉庫業をするのは簡単ではないことから、おそらくAPIを通じて既存の倉庫会社との連携も図っていると思われます。

 また、東のセルフストレージがMakespaceなら、次に紹介する「Clutter」は西のセルフストレージとも言えるサービスでしょう。2015年10月にシリコンバレーの重鎮「セコイヤキャピタル」によるシリーズAでの900万ドルに続き、2016年4月にはシリーズBで2000万ドルの投資を受けているClutterは、倉庫を管理する独自のソフトウェア技術が特徴です。こちらも情報が少ないですが、都市部に大規模倉庫を借りる旧来型の倉庫会社とは異なり、郊外にある中小企業の小さな倉庫を幾つも借りる仕組みを構築し、それをITで管理できるようにしています。

「Clutter」
「Clutter」

 日本国内でも新たな仕組みが構築され始めています。ただ、その前に、倉庫会社を取り巻く課題について触れたいと思います。

新たなIT化を求められる日本の倉庫事業者の課題

 倉庫事業者は、荷主(事業主)からの受発注データを基に、「効率」を高めるべくオペレーションマネージメントシステムは日々革新をし続けています。ただし、全ての倉庫会社がそうではないのですが、効率化の弊害として縦割り組織が明確になることで、マーケティングとオペレーションは分断されてしまいます。言うなれば、顧客視点が失われ、作業としての効率だけが高まってしまうという状況に陥ります。

 そうなることで、難局を迎えます。本来、荷主はマーケティングに専念すべきですし、オペレーションは“餅は餅屋”の発想で倉庫事業者に任せればいいのですが、オペレーションに深く介入したくなってしまうのです。「なぜ○○は直ぐにできない?」など、荷主の不満につながります。最終的には、パートナーであるはずの倉庫事業者と荷主の関係性が崩れ、倉庫会社は現場に介入される形で下請け的な立場に追い込まれてしまうのです。

 あらゆるビジネス環境に共通することだと思いますが、短期的には「効率」の追求が重要ですが、中長期的な成長には「効果」の追求が欠かせません。そのような時、オペレーションに集中することは効率しか見えなくなります。よって、エンドユーザーが求めている価値を追求するマーケティング視点が、IT化が進む倉庫業にこそ求められていると私は考えます。

 ITの活用方法はそれぞれですが、マーケティング機能を獲得し、新たな業態へと進化するために、寺田倉庫はITを活用しました。少しご紹介したいと思います。

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