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朝日地球会議2016

AIは仕事を奪う存在か、シンギュラリティは来るか--識者が語る共生への道 - (page 2)

佐藤和也 (編集部)2016年10月27日 08時00分
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 萩原氏は脳科学とAIの融合によって可能となったサービスとして、脳活動情報から動画視聴中の印象内容を推定し、CMなどの評価測定するといったものや、センサを通じて水道施設などのインフラをAIが監視するといった実例を示し、すすでにサービスとして使われている状況だと説明。この先も、人間ではなくAAIによる設備の監視が進んでいくと同時に、脳科学とAIの融合により新たな活用先も生み出されていくであろうと語る。

  • NTTデータ経営研究所 情報未来研究センター長 横浜国立大学大学院客員教授の萩原一平氏

 そして蓄積されている脳科学やAIの知見を、どのような形で技術として活用していくかもポイントとなる。前述したオズボーン氏の“仕事が代替可能になる”といった話題などに触れ「さまざまな見方などあるが、重要なのはそれだけの可能性を秘めている。AIが脅威になるという見方をされていることは知っておくべき」と述べた。

 もっとも、萩原氏は人間は道具(技術)の進化にあわせて、自らの周辺環境を変えて快適な環境を整えてきたと主張する。人間は目だけではなく五感などさまざまなセンサを持っており、環境の変化を察知し、脳によって対応しているという。そこにIoTの技術が入ってくるにあたり、鍵を握るのはAIと環境知覚化の2つだと説明する。これにより今まで以上に環境を詳細に把握し、自動的に環境を調整できるようになる。そして、日本でもの作りをしてきた会社にとっては得意な分野であることを付け加えた。

  • 脳科学とAIの融合と、その応用先の展望

 AIとIoTが人間をサポートする環境となったときに、企業として活用する方向性としては「質の追求」「創造性の追求」「人材活用の追求」の3つを挙げた。こと人材活用の追求については「人と置き換わるという視点だけで、コストカットのツールとして活用するのであれば、企業としての成長は止まる」と警鐘をならし、社員が何をやるべきかを考えた上でAIを導入すべきと主張する。その背景には、人間がひとりひとり異なる脳を持ち、飽くなき欲求を持つ存在であることを挙げる。

 これからは、デジタルテクノロジとコグニティブサイエンスの2つの技術を通じ、人間と環境の情報をあわせることによって、個々人が満足できる価値(サービス)を提供するシステムが可能となる。こういったシステムなどを通じて、企業が生み出すべきものとして考えるのは、顧客がお金を払うのは物品やサービスのためではなく“満足した顧客の脳”ということだと語る。そしてこれからは社会科学や認知科学、ビッグデータやIoTを組み合わせることによって、イノベーションのきっかけになるのではとまとめた。

  • AIとIoTが人間をサポート

  • デジタルコグにティブサイエンスの活用

  • 企業が生み出すものは、満足した顧客の脳

日本の産業界にとって“ラストチャンス”

  • 朝日新聞編集委員の堀篭俊材氏

 これまでも技術革新と進化によって“自動化”が進んできたが、AIの活用による自動化はこれまでと何が違うのかを、堀篭氏がそれぞれに問いかけた。

 オズボーン氏は率直に、人間の認知作業ができるようになった点がこれまでとの違いとし、前述したようにテクノロジなどに関する新しい雇用が増えるのではと語る。これを受けて松尾氏は、新しく生まれる仕事や産業を日本が獲得していけるかが重要だとした。

 またオズボーン氏は、ある仕事の全てのタスクをAIに任せられなくても、一部のタスクを担うことができれば、付加価値を高める作業や、創造性のある仕事に時間を費やせるようになるのではという。こういった仕事は人間の欲求を満たす“楽しめる仕事”にもなるが、全ての人が持ち合わせているわけではないため、スキルを持っていないと格差が生まれる可能性を示唆した。萩原氏は2人と同意見とした上で、技術の知識だけではなく“使い方”が重要だと付け加えた。

 堀篭氏からは続けて、AIが人間を超えるシンギュラリティが本当に訪れるかどうかの質問も投げかけられた。松尾氏は、今の科学技術が50年後や100年後にどうなっているかは予測できず、AIにおいても同じだと語る。「予測の議論は面白いが、今の日本が直面している課題と同列に議論すべきではない」という考えを示す。

 オズボーン氏も、短期的な視点と長期的な視点はわけるべきと、松尾氏の意見に同意。今は現実的に予測できる未来について考えるべきだとした。その一方で、シンギュラリティはSFごとではなく、近い将来において驚異となりうる出来事だという認識は持つべきだとし、どのようにコントロールしていくかを考えておく必要はあることを付け加えた。

 萩原氏は、現時点でも電卓で計算したほうが早いという例えから、すでに身の回りには人間の能力を超えているものがあるが、あくまで主体は人間であるということから、AIが人間を超えることはないという考えを示した。またAIが個々の欲求にあわせたサービスを提供するとして、結局のところそのサービス内容を考えるのは人間であることから、どこまでいっても人間が優れている状態が続くのではとの見解も示した。

  • 日本の社会的課題

 最後に日本が高齢化社会を迎え、労働力不足の問題を抱えていることについても問いかけられた。オズボーン氏は英国でも考えられている問題だとし、機械学習を通じた医療領域への研究や、遠隔診療などの取り組みが進められていることが語られた。

 松尾氏は、課題があるということは大きなチャンスもあることの裏返しとする一方で、「そのチャンスに次があるのかは疑問。産業界にとってはここがラストチャンス。ここをものにできるかが重要。人材の育成も急務」と指摘する。また、人口が少なくなっていき社会的な課題が増え、それをロボットや人工知能で解決していくというのは先進国の新しい姿になると語る。こういった環境下で住みやすい社会を構築に挑むのは大きなチャレンジであり、世界に先駆けて示す必要もあるという。そして、そもそも人間にとって、住みやすく生きがいのある社会というのはどういうものかも議論し、考えていくべきだと主張した。

 萩原氏は、機械に全てを任せるのではなく、人間、ロボット、人工知能といかに協調していくかが重要だと説く。松尾氏が指摘するような日本が抱えている問題は、ある意味で試されている実験場でもあるとし、「ここで成功することは日本企業や社会にとっても大事なことだと。この取り組みが世界的に見てさまざまな分野での貢献につながる」とまとめた。

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