カンボジアは2018年に総選挙を控えている。5年に一度行われる国政選挙。その前哨戦である地方選挙は2017年春とあり、すでに来たる選挙を目視した動きが活発化している。
現在のカンボジアの政治状況を簡単にまとめると、政府与党であるカンボジア人民党(以下、人民党)と、前回2013年の選挙で急伸長した野党第一党のカンボジア救国党(以下、救国党)が勢力を二分しており、次の選挙でも両党の一騎打ちであることが予測される。
今回の選挙戦で、活動宣伝ツールとして存在感を増しているのが「Facebook」だ。特に救国党はFacebookを宣伝メディアの主軸に置き、演説のライブ配信などを積極的に行っている。
一方、与党人民党はテレビ、ラジオ、新聞といった既存マスメディアを駆使しているが、救国党に触発された形でFacebookにも力を入れ始めている。現にフン・セン首相も自らのアカウントを立ち上げ、その拡散に余念がない。10月9日時点のファン数は約580万人。救国党はこれを「ファンを金で買っている」と批判し、首相もそれに応戦するなど、Facebook上での舌戦も繰り広げられている。
カンボジアでは、テレビやラジオ、新聞はすべて与党の息がかかっており(外資系を除く)、与党に都合の良い内容しか流せないのが現状だ。カンボジアは表向き民主主義国家であるが、この点においては「北朝鮮のよう」と揶揄する人も少なくない。
そのため、メディアを使った声高な選挙活動が許されるのは与党のみで、これまで野党は細々と党大会で演説したり、外資系のラジオ番組に時折出演したりと、苦戦を強いられてきた。資金力、宣伝力において与党に勝る野党はなく、実質人民党の独裁体制が内戦終結から実に四半世紀近く続いてきた。
しかし、ここ1~2年でその様相が変わってきている。若者を中心に急速な既存メディア離れが進んでいるのだ。彼らはテレビは見ずにもっぱらスマートフォン。特にFacebook人気はすさまじく、「Google検索の方法は知らないけれど、Facebookの操作ならわかる」という人もいるという。
外資系大手広告代理店の調査によると、2015年7月時点の国内Facebookユーザーは290万人で、前年同時期の170万人から約70%も上昇したとのこと。このうち最も高いユーザー層は18歳から34歳で、利用率は約90%にもなるという。つまり若い世代のほとんどがFacebookを日常的に使用しているということになる。
この爆発的なFacebook拡散の背景には、スマートフォンの普及とネットワーク環境の向上が深く関わっている。他国同様にスマートフォンが急速に広まり、機種も安いものでは100ドルを切るものもざら。今では月給100ドル程度の低所得層も、猫も杓子も”スマホ”である。加えて、SIM購入は簡単かつ1ドルからのプリペイド式。最近はどのキャリアでも3G、4G回線が利用でき、農村部に至るまでインターネットサービスを受けられるようになった。
現在、国によるネットの情報規制は行われていない。つまり、唯一自由なメディアがインターネットなのだ。野党はそこを突き、積極的にネットを活用。政府はその影響力の強さに頭を悩ませており、規制をかけようか検討しているようだが時すでに遅し。今では、いかにネットを使って有権者を取り込むかが最大の関心事となっている。
プノンペンでIT関連事業を営むワ・コラさん(30)は、カンボジアのネット事情についてこう話す。「最近はポータルサイトやニュースサイトですらFacebookのシェア頼みで、単体でアクセス数を伸ばすことが難しくなっている。政治家も政策表明をFacebook上でしたりと、影響力は日増しに強まっている」。
各党の支持層を大まかに分けると、人民党は内戦を知る旧世代や農村部の人、そして救国党は都市部の若い世代となる。人民党は「内戦を終結させ平和なカンボジアを作った党」として、旧世代が抱く「戦禍の恐怖」を意識的・無意識的に操作し、政権を維持してきた。しかし、人口の過半数が戦争を知らない世代となった今、先進国と同様、自由や個人の幸せを求める若者が急増。その手法はもはや通用せず、むしろ強烈な”現政権離れ”の温床となっている。
Facebookにより国の将来すら変えられようとしているカンボジア。しかし、Facebookはあくまでツールであり、根底にある強い政治不信が顕在化したという方が妥当であろう。アラブの春ならぬ「カンボジアの春」となり得るのか。次の選挙から目が離せない。
(編集協力:岡徳之)
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