アマゾンの電子書籍で不正に利益--「キャットフィッシング」詐欺の実態 - (page 3)

Zack Whittaker (ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル2016年10月05日 07時00分

 ダウンロードは匿名ネットワーク「Tor」経由でトンネリングされ、サーバのIPアドレスがマスクされるため、Amazonのシステムで不正なダウンロードを特定するのがさらに困難になっている。

 1冊の電子書籍がほんの数日で、チャートのランキングが上昇して目立つようになることもある。特にニッチなカテゴリであれば、上位100位以内に入るのも容易だという。

 そうしてユーザーの目に触れることで、1日当たりの正規ダウンロード数が何十冊分も増加する可能性がある。なかには何百冊と売れる書籍もあり、そうなれば印税は何千ドルという単位になる。これよりもはるかに規模が大きくなり、しかも自動化されているところを想像してみてほしい。印税はさらに膨れ上がるだろう。

数カ月で数百万ドル

 Shershnyov氏を言い表せる4文字言葉はいくつもある。すぐに思いつくのは、「rich」(金持ち)だ。

 小さな規模でも、1冊の電子書籍はその製品寿命が尽きるまで、つまりAmazonがその書籍を不正と判定するまでに、数セントから数百ドルを生み出すことがある。不正な書籍はすぐに販売停止となるが、タイトルやカバー、著者名を変えて再び売られることも多い。

 「著者がAmazonで注目度を引き上げようと思ったら、1日あたり数千回のダウンロードがあれば実現できるはずだ」。著者の1人は米ZDNetにこう語った。

 「ただし、それをやり続けないと、あっという間に転落してしまう。Amazonのアルゴリズムは変動の影響を非常に受けやすいので、勢いを維持できなければ、順位はすぐに落ちる」(同著者)

 その勢いを1冊当たり数日保つだけでも、わずかな増加が積もり積もって大きくなる。

 印税(と希に払戻金)が少しずつ入ってくるようになると、その取引はAmazonの販売&ロイヤリティレポートに記録される。Shershnyov氏のロイヤリティレポートによると、11のマスターアカウントからの項目別売り上げは、2015年6月以降で244万ドルとなっている。この2015年6月に、Amazonは著者への支払いの条件を変更した(この詐欺が始まったのは、それより6カ月前だが、その6カ月間に何が行われたかは不明だ)。

 この詐欺では2016年3月上旬以降、紙の書籍の売り上げも8万3340ドルに達している。

 Shershnyov氏は計画が非常に順調に進んだことを受けて、恋人で元投資アドバイザーのAnna Mandryko氏のために、ほぼ同一のデータベースを作成した。

 米ZDNetは米国時間9月22日、Shershnyov氏とMandryko氏に連絡を取ろうとしたが、本稿執筆時点でどちらからもコメント要請への返事はない。だが、サーバは2つとも電子メールの数時間後にはオフラインになった。その後、Shershnyov氏はTwitterのアカウントを削除し、LinkedInのページも消去して、会社のサイトも停止している(ただ、キャッシュはオンラインに残っている)。

キャットフィッシングとその発覚

 Amazonも苦慮している。なにしろ、同社が詐欺行為に対処するのは初めてではないからだ。

 Amazonの広報担当者は27日、次のように語った。「本件に関連するタイトルはすべて削除した。不正行為の当事者に対して、あらゆる法的措置を検討しているところだ」(米ZDNetの調査では、少数のタイトルがまだサイトに存在しているが、売られているのは紙の書籍だけであることを指摘しておく)

 Amazonは何年も前から、キャットフィッシング詐欺を1つ潰しては、また別の詐欺に対処している。そうした詐欺は、まがいものの電子書籍作りから、偽レビューの販売までに及ぶ。Amazonはこの1年で、偽レビューアーとされる人物1000人以上を相手取って3件の訴訟を起こした。少数のレビュー販売サイトが閉鎖されたが、それ以外は今も存続している。

 だが、オンラインストアはこうした詐欺行為を撲滅する上で問題に直面している。

 Shershnyov氏は、Amazonのサービス利用規約に違反した。おそらく、例のデータベースのホストに利用したことで、Microsoftの規約にも反しているだろう(この件について、Microsoftからのコメントは得られなかった)。だが、分かっている限りで、法律には触れていない。

 ペンネームで本を書くことも、その仕事を第三者に外注することも、犯罪ではない。クラウドソーシングサイト「Fiverr」でShershnyov氏から仕事を請け負った人物を2人確認できたが、仕事の内容に関する質問には回答してもらえなかった。

 偽レビューのサービスを提供しているサイトも、販売数を引き上げて利益を得るために複雑なシステムを使う個人の詐欺行為でさえ、活動を行っているマーケットプレイスの利用規約には反していても、刑事責任を問われることはない。

 Shershnyov氏の計画は発覚して終わりを迎えた。ただし、当面だ。Amazonはこうした行為と常に闘っており、特にこの種の詐欺師の痕跡を押さえるための技術的なハードルを克服しなければならない。

 それでも、詐欺の変化と進化の速さを考えれば、Shershnyov氏が1週間か1カ月のうちに戻ってきて、別の名前を使ってこれまでどおりの手口を繰り返すこともあるかもしれない。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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