10代女性を対象にしたプリキャンティーンズラボの「いじめ・嫌がらせ」に関する調査(2016年7月)によると、10代女子が9割使用しているLINEについて嫌な思いをしたことは何か尋ねたところ、「既読スルーされた」(44.2%)、「ブロックされた」(39.1%)、「未読スルーされた」(29.2%)となった。
10代は「ブロック」、「既読」がついたのに返事がない行為「既読スルー」、トークを送ってもなかなか既読がつかない「未読スルー」に非常に敏感だ。「既読がついたのに返事が遅くていじめられた子がいる」とある女子高生は言っていた。その女子高生は、「既読をつけたらなるべく早く返事するようにしている」と言っていた。これが過剰になると、“LINE依存”状態になることもある。
既読スルー問題は深刻で、2014年5月には、東京都でLINEの既読スルーが原因で拉致監禁事件が起きている。LINEで知り合った男性が既読スルーしたことに腹を立て、少年3人(18歳、16歳、16歳)が男性と交際していた女子中学生を呼び出してカラオケ店などで15時間監禁。警視庁少年事件課に未成年略取と監禁などの容疑で逮捕された。少年の1人は犯行動機について、「既読スルーされ、腹が立った」と答えている。
なぜ10代は既読スルーや未読スルー、ブロックなどを嫌がるのか。その理由とともに、彼らの行動パターンと問題点を考えたい。
LINEなどのSNSが普及して、電話に対する心理的ハードルが高くなったという人は多いだろう。電話は都合如何に関わらず相手に出ることを強要するツールであり、物理的な迷惑をかける可能性を常にはらむ。固定電話しかなかった時代には、その傾向がさらに顕著だった。つまり、電話はかける側にもかけられる側にも心理的抵抗を感じさせやすいということになる。
10代の子たちと話すと「基本電話はしない」と断言する。「電話をかけさせるとか超面倒くさい。それだけでやる気なくす。ネットでできるものはできるだけネットでやりたい」。彼らは、そもそも相手に電話をかけること自体に強い心理的抵抗を感じているのだ。
一方、LINEなら送り手側のストレスは限りなく低く、ハードルも限りなく低い。LINEアプリを開いて文章を入力したり、スタンプを送りさえすればいいからだ。受け手側は電話と違って必ずしもすぐに応答しなければならないわけではないが、実はプッシュ通知と既読機能によって、「返事をしなければ」という心理的負担を感じている。つまり、送り手側からは気軽に送れても、受け手側にとっては負担が重い可能性があるのだ。
電話がかかってきた場合の行動は、「出る」「出ない(出られない)」の二択しかない。そして、「出ない」場合の理由はわからない。
一方のLINEは、「既読をつけてすぐに返信する」「既読をつけたが返事が遅い」「既読をつけて返事をしない(既読スルー)」「既読をつけない(未読スルー)」と種類が増える。つまり、送り手側にあれこれ推測を生んでしまうのだ。このずれが、多くの問題を呼び起こす。
コミュニケーションには、表情や声などが重要だ。しかし、LINEは、相手の顔が見えず声が聞こえないままでコミュニケーションするツールだ。つまり、相手の気持ちがリアルタイムにわからないため、常に憶測しながらコミュニケーションしなければならない。
では、既読がついたのに返事がないことは、なぜ嫌われるのだろうか。そもそも既読がついたということは、相手はメッセージを読んでいる。それにもかかわらず返事がないということは、「返事ができない」か「返事がしたくない」、「あえて返事をしない」のどれかだ。
既読がついても返事がない場合、社会人ならば「仕事(家事、育児など)で忙しくて返事ができないのだろう」と考えることが多いだろう。しかし、10代は可処分時間が豊富にあり、「返事ができない」状況に置かれることがほとんどない。そのため、相手も自分と同じと考えるため、「返事ができない」のではなく、「返事がしたくない」「あえて返事をしない」と考えてしまうのだ。
「既読がついたのに返事がない」行為は、「怒っているかも」「嫌われているのかも」「軽んじられているのかも」と、10代に余計な心配をさせる。拉致事件の場合も、男性による既読スルーが4月から続いたため、少年たちが5月に暴挙に及んだとされる。通常のリアルな付き合いだったら、彼らの関係は自然消滅したかもしれない。しかし、「既読スルー」という形で“拒絶”が視覚化したことで、少年たちの怒りに火をつけたのだ。
「既読をつけたが返事が遅い」は、「既読スルー」と紙一重だ。10代の子たちは「既読をつけたら即返する」というが、それにはこのような理由が背景にある。そして「未読スルー」が嫌なのは、「ブロックされたかもしれない」と感じるからだ。
「LINEの返事がないのにTwitterを更新してたりするとイラッとする」という話は、実に多くの高校生から聞いた。中途半端に見えてしまうことで、本来なら気にしなくて済むことを気に病む、SNSの弊害と言えるだろう。
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