8月23日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(三十九)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回は「誰にでもわかる! エンタメ的人工知能(AI)考察」と題し、人工知能(AI)にまつわるさまざまな話題が話された。登壇したのは人工知能学会の前会長でもあるはこだて未来大学教授の松原仁氏、認知科学の研究を行っている電気通信大学助教の伊藤毅志氏、大手ゲームメーカーでゲームAI開発を行っている三宅陽一郎氏の3人。
冒頭では“そもそもAIの定義とはなにか?”が問いかけられ、松原氏は率直に「100人いれば100通りの、人の数ほど定義がある」とコメント。最大公約数となる回答は「人間のように賢いコンピュータを作りたい」という形になるが、そこから先は研究している人やジャンルによってとらえ方が異なるという見解を示す。
伊藤氏からは、認知科学の観点から見たAIと人間をはじめとする生物の知能に違いについて「空を飛ぶにはどうしたらいいか?」という質問に例える形で説明。AIの場合は、結果として空を飛ぶという目的さえ達成すればいいことから、ジェットなどどんな推進力を使ってもいいという判断をする。一方で人間の場合は、鳥はなぜ飛べるのかというメカニズムから方法を考えるという違いがあり、それが認知科学としてのとらえ方という。
三宅氏が取り組んでいるゲームAIについては、人間の代わりをするものではなく、デジタルゲームの世界の中で生きているモンスターなり生物であったり、仮想世界のなかで息づく本当の知能という考えを示した。
昨今ではさまざまなところAIの話題が挙がり“すごいもの”というイメージもあるが、実際にはまだまだ課題も多くあるという。そのひとつとして「フレーム問題」が話題となった。人間は目標達成に必要なものを、数多くある情報から取捨選択して見極められるが、コンピュータにはそのことができない。そのためAIには人間が“枠”となるものを設定しなければならず、その枠から少しでもはずれるとなにもできないという問題だ。三宅氏はイメージとして「“超”偏屈な人。視野がとても狭くて優秀な人の究極版」と例えた。
最近では、「AlphaGo」(アルファ碁)がプロ棋士を倒したことが大きなニュースとなった。このことに関連して伊藤氏は、囲碁のAIであってもルールが違うと全く能力が発揮できないことを説明。人間であれば19路盤(※縦横19本の線を持つ盤)や13路盤、9路盤のそれぞれに対して、ゲームの違いを理解した上で知識を応用し対局することはできるが、AIが19路盤で学習しチューニングした知識を13路盤などで対局すると、応用できるところもあるがかなり弱くなってしまうと指摘する。
また将棋のプロ棋士である羽生善治氏は、チェスの実力派プレーヤーとしても活躍していることに例えて、人間であれば別のゲームでも何らかしら知識を転用できるところもあるが、コンピュータにとってはまったく別のものであり、どちらかひとつしか対応できないとも付け加えた。
AIとしての課題や問題点はあるものの、囲碁や将棋など特化した部分だけを見るならば相当に優れていることを、松原氏は「隙だらけでガードが甘いにもかかわらず、ハードなパンチでKOできるだけの能力を持っているボクサー」と例えて表現していた。
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