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「シン・ゴジラ」最大の課題は、総監督「庵野秀明」のこだわり--制作裏話を聞いた - (page 2)

山川晶之 (編集部)2016年09月02日 10時00分
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すべては「庵野対策」のため--フレキシブルな編集体制はどのように構築されたのか

――制作環境はどのように構築したのでしょうか。

佐藤氏 まず編集ソフトですが、軽快さ、安定性、使いやすさをメインに考えて選びました。シン・ゴジラでは、フレキシブルな編集環境を整える必要があり、複数人が同時に使うケースを想定しました。そのためには、協調性や経済性が問題になってきます。高額なソフトなどは使えません。

インタビューは、東宝スタジオ内のピクチャーエレメントのオフィスで実施された
インタビューは、東宝スタジオ内のピクチャーエレメントのオフィスで実施された

 今回は、アドビシステムズの「Premiere Pro CC」を採用しました。僕自身はシン・ゴジラ以外の作品でもメインで使用しています。編集ソフトもいくつかの選択肢があります。僕が3年前まで使用していたのはAppleの「Final Cut Studio」というソフトです。さすがに設計が古いため今回は採用しませんでしたが、今でも使用している監督がいると聞きます。また、後継の「Final Cut X」も海外では普及し始めています。以前、台湾のホラー映画の予告編制作に携わったのですが、現場ではFinal Cut Xが使われていました。ただ、日本ではいまだ事例が少ないため、手を出す自信がなかったというのが正直なところです。

 また、映画業界、CM業界では「Avid」と呼ばれる業界標準のツールがあり、東宝の編集室にもAvidを採用している編集ルームが4~5部屋あります。周囲からは、「Avidを使った方が良いのでは」「なんでPremiere Proなの?」とまで言われましたが、「Adobe Creative Cloud」のライセンスを追加するだけで複数の導入が可能なため、編集の同時作業も鑑みてPremiere Proを採用しました。

 東宝の編集室は「クローズド」です。もちろんデータの守秘義務などが理由なのですが、庵野監督にその理屈か通じるのかという話です。事実、東宝スタジオで本編集をスタートさせたのですが、結果的には庵野監督が代表を務めるカラーの編集室に移動してメインの作業が始まりました。東宝もよく許したなと思います(笑)。

 そして、撮影部隊が収録したオリジナルデータは、DIT(デジタル・イメージ・テクニシャン)側で、色のトーンを整えるカラーグレーディング作業を施し、編集室に送るオフライン用のデータを作成します。

 送られたデータは、編集前に一度音の貼り付けや全体を整理する必要があり、本来であれば助手1人で作業するのですが、今回は撮影したデータが大量だったため、iMac2台、Mac mini1台、Mac Pro1台を使い、4人で準備しました。Premiere Proは1つのファイルに複数人が同時にアクセスできないので、シーン別に分担して作業を進めています。

大屋氏 同業者からもうらやましがられました。東宝の編集室で合成が多い作品を編集する場合、編集室を増やしてもらうようお願いするのですが、その分費用もかさみます。今回は、ハードにiMacやMac miniを使用し、ソフトも安価なPremiere Proを使うことでコストを抑えられました。

 自由度はとても重要な要素ですが、膨大な予算を預かる作品を撮る場合は、自由度を制限した中で制作する必要があります。庵野監督は、それをこじ開けようとするので、いかに怒られないように編集体制を整えるかを重視しました。同業者がうらやましがったのは、作業にあわせて体制を強化できる環境に対してのものだったのです。

佐藤氏 海外だとメジャーな編集フローではあるんですけどね。

――編集作業はリモートでは対応できなかったのでしょうか。

佐藤氏 リモートでは難しいですね。なぜなら、DITから送られてくるデータが膨大だからです。東宝内にあるピクチャーエレメントのサーバには24TバイトのRAIDディスクを構築していたのですが、1日に200~300Gバイトのデータが毎日送られてきて、最終的に(編集用ワークデータ含めて)22Tバイトまで埋まりました。

DITから提供されたデータはピクチャーエレメント内のRAIDディスクに格納される
DITから提供されたデータはピクチャーエレメント内のRAIDディスクに格納される

 編集体制の第1段階は、室内LANでネットワークを組み、RAIDディスクのデータで編集していました。その後、僕と庵野監督はカラーの編集室に移動し、東宝とカラーの間でネットワークを構築していたのですが、VFXの作業が本格的になるのに合わせて、僕はVFXスタジオの「白組」に、庵野監督はカラーの編集室に常駐することになりました。

大屋氏 白組とカラーの編集室には、ピクチャーエレメントのRAIDディスクと同容量のストレージを準備し、「PE Cloud」とよばれるピクチャーエレメントのサーバでネットワークを組み、同期させることにしたのです。それぞれのストレージは、NTTの光回線をベースにIPv6で接続し、完全にクローズドのネットワークを構築しました。

佐藤氏 VFXの作業が始まると、庵野監督は週に一度、合成チェックのため三軒茶屋にある白組のスタジオに訪れます。それ以外は、ネットワークを構築したことで、できあがった合成のカットを編集ラインにアップロードしておき、庵野監督がカラー側で確認、フィードバックすることが可能となったのです。こうしたワークフローはこれまで実施したことはあまりありません。タイムラグはありますが、200Mバイトぐらいのデータであれば数分で同期されます。

大屋氏 データ量は、普通の作品でも10~20Tバイト、大きな作品だと100Tバイトに上ることもあります。一カ所に膨大なデータを蓄積してネットワークでやり取りするのは現実的ではありません。ですので、海外では複数の拠点にデータを分散させ、24時間、地球の裏側からでもアクセスできる仕組みに変わりつつあります。

佐藤氏 例えば、カナダの極寒地で撮影したデータをロサンゼルスの編集スタジオに送り、翌日には編集された映像を監督が確認できるという制作スタイルも海外では一般的です。今回は、「庵野秀明」という才能を生かすために、細かいレイアウトやディティール、色味なども含めてすべてチェックし、完成ギリギリまで編集したい庵野監督に対して、どのような環境を構築できるかと考え出したのがこのシステムだったのです。

大屋氏 すべては庵野対策のためです。

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