佐藤氏 実際に編集したデータを立ち上げてみましょう。これは、撮影が終わった12月中旬の段階のものです。もっと前にさかのぼれば、5月には撮影前のいわゆるラジオドラマ版、10月には絵コンテやプリヴィズがだいぶ入ってきます。
庵野監督からは「このロケーションで撮る分量を知りたいのでプリヴィズからそのシーンだけを切り出してムービーまとめて下さい」みたいな要望も良くありました。途中から、演出部など準備が必要なパートから、次の日に何を撮影するのか知りたいという要望が出たため、編集部でつなげたプリヴィズムービーを、クローズドのSNSに「明日の分のRUSH」として貼り付けて、予習してもらうスタイルにしました。
庵野監督は、RUSHムービーをいじりながら映画をデザインしていました。必要なものは残しつつ、脚本もどんどん変わりますし、撮影したのに使わないカットもたくさんあります。プリヴィズも山ほど作りましたが9割は使われていません。ただ、他の業界の方々からも「どうやって制作したのか」と非常に興味を持たれており、プリヴィズをBlu-rayに同梱する話もあるみたいです。
スタッフも本当に面白そうに作業していました。ワンカットに何パターンものデータを自主的に上げてくることもありましたが、すべて使われるわけではなく、使えない絵は庵野監督からあっさりNGも出ます。
佐藤氏 ARRIのALEXAという、映画では一般的なデジタルシネカメラを使用しています。特撮関係はREDをメインに使いました。また、撮影現場では、庵野監督のほか、摩砂雪氏、轟木一騎氏の3名が、キヤノンのXC10を持って、メインカメラとは別のアングルを狙いました。あとは、庵野監督自身が回すiPhoneも使用しています。
大屋氏 GoProもかなり使っています。自衛隊関係では、戦闘機の外装に取り付けて実際に飛ばしましたし、F2戦闘機が登場するシーンで、パイロット越しにもう一機映るシーンがあるのですが、ここはGoProで撮影しました。
佐藤氏 戦車の中はiPhoneで撮影しています。ヘリの中のパイロットの様子は、iPhoneとソニーのアクションカムのほか、XC10も特殊なレンズを用いて別位置から収録しています。iPhoneにしてもGoProにしても、「引きじり」といって、カメラを置いた後ろのスペースが少ない場合にとても有効なんです。
実物の戦車を使ったカットは何カットもあり、10式戦車の外装にもGoProを貼り付けています。ある日映像をチェックしてたら、戦車に黒いガムテープが映り込んでいて「あ、これGoProじゃん」と、ガムテープを消さないといけないということがありました(笑)。
官邸内の撮影は、3台のアレクサとXC10、iPhoneを使用しています。
佐藤氏 色の管理に関しては、白組とピクチャーエレメントで事前に細かなリサーチを実施しました。また、「海賊とよばれた男」「永遠の0」などのVFXを手がけた、山崎組という同じ白組の調布のチームがピクチャーエレメントと密に連携しており、そこからのフィードバックも加えて、白組と細かく調整しました。
大屋氏 シン・ゴジラでは、5~6種類のカメラを使用しましたが、色のトーンを整えたあとに佐藤氏にデータを渡しています。アレクサとiPhoneの絵はまったく色味が違うのですが、カラーグレーディング後は、一瞬同じカメラに見えるほどに統一されます。そもそも、カラーグレーディングをしないと、はなから編集では使われないのです。
佐藤氏 ところがですね、さすが庵野監督ですよ。iPhoneなどで撮影したそばから大屋さんのところに回さずに直接編集に入れて見てくれということが多々ありました。
大屋氏 「撮ったままがいいんだ」という、いわゆるドキュメンタリー映画なんだと主張していました。ゴジラが出現したその場にいた人が撮ったように、演出として色をバラバラにして欲しいと要望したのです。
ただし、要望のとおりに見せると「やっぱり色を触った方が良いね」ということになり、結果的にカラーグレーディングを施すことになりました。また、色味を整えておかないと、合成チームがどの色に合わせて良いかわからず、合成できなかったという問題もありました。
佐藤氏 いや、なかなか大変でした。
大屋氏 その信頼関係を作るためにこれまでやってきたというのもあります。
佐藤氏 僕自身、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」と「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」の予告編から庵野監督とは仕事していますので、だいぶ長い関係にはなりますね。常に一緒というわけではないのですが、「キューティーハニー」のVFX、「巨神兵東京に現わる」の制作にも参加しています。
今回も、シン・ゴジラで監督を務めた樋口真嗣氏が構築したいつものVFXのチームがベースでしたが、そこに庵野監督というファクター、そしてカラーのスタッフという普段とは違うチームも加えることになり、最初は戸惑いもあったのですが、何とか映画として形にすることができました。
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