2015年10月に約3400台のiPhone 6を導入し、院内の医師、看護師、コメディカル、事務などの多くに「スマートフォン1人1台」を実現した東京慈恵会医科大学(慈恵医大)。すでにナースコールなどがスマートフォンでの運用に切り替わっているという。
日本の医療機関として初めて、大規模なICT化を進めることを決めた狙いを、慈恵医大の先端医療情報技術研究講座 准教授である髙尾洋之氏に聞いた。
なお、髙尾氏は脳外科医として、iPhoneが発売された2007年からスマートフォンで画像を閲覧できる遠隔医療ソフトをベンチャー企業と開発。そのソフトを米国に導入するため、カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に2年間在籍したほか、厚生労働省でも1年ほど医療機器を担当した経験を持つ。2016年4月に発足した産学連携のコンソーシアム「メディカルITメディアラボ」の主要メンバーも務める。
数年前までは、電磁波が医療機器に干渉する可能性があるため、病院内では携帯電話を使ってはいけないと言われてきたが、現在は通信方式や端末の性能向上の発展にともない、携帯電話が医療機器に与える影響はかなり少なくなっている。2014年8月には電波環境協議会が、医療機器から1m以上離れていれば、手術室や検査室を除き、携帯電話を使用しても問題ないとする指針を発表した。
これを受けて慈恵医大とNTTドコモで検証をしたところ、電波状況がよければ、携帯電話を医療機器に2cmまで近づけなければ影響が出ないことが分かった。また 電波状況によっては、これまで医療用に使われていたPHSよりも、携帯電話の方が医療機器に与える影響が少ないことも分かり、端末の切り替えのタイミングで、医師や看護師など、すべての医療従事者へのスマートフォンの導入を決めたという。
慈恵医大では、東京オリンピックが開催される2020年に向けて、「東京の顔」となるような存在感のある大学を目指している。その一環として、新病棟が完成する2019年までに、スマホ診察券や、院内ナビゲーションシステムなど、ICTを活用したさまざまなソリューションを開発・導入したい考えだ。そのための第1ステップとなるのが、1人1台のiPhone導入だと髙尾氏は話す。
とはいえ、3000台以上のスマートフォンを病院に入れるという前例のない取り組みだ。どのような規約を設けるのか、アプリを制限するべきか、端末を紛失した際の対応はどうするのかといった、あらゆる項目についてのルールや環境作りを手探りで進めていったという。
たとえば、スマートフォンの使用に支障がでないよう、NTTドコモの携帯電話基地局を院内に設置して、電波の状況を大幅に改善。また、フリーWi-Fiを設けて、スタッフだけでなく患者やその家族がロビーや待合室などで自由に使えるようにした。ただし、医療機器に影響がないと言われても、病院での携帯電話の使用に不安を覚える患者はまだまだ多いため、院内にポスターを貼るなど、理解を得るための周知活動を続けていく必要があるとしている。
またツールについては、アイキューブドシステムズが提供するモバイルデバイス管理サービス「CLOMO MDM」を導入し、紛失や盗難時に遠隔で端末を初期化できるなどのセキュリティ対策基盤を導入。
加えて緊急時などにグループ化したメンバーに一斉にプッシュ通知できるようにしたほか、スタッフ間のチャットツールである「CLOMO IDs」や、医師の顔写真が見られる電話帳アプリ「CLOMO SecuredContacts」なども取り入れた。
さらに、iPhoneが落下しないように設計された収納ポケットつきの白衣をクラシコと共同開発しており、現在大量生産に向けて調整中だという。
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