進まない日本の「医療ICT」に風穴を空ける--iPhone3400台を導入した慈恵医大 - (page 2)

セキュリティ対策は?スタッフの使い方もサポート

 医療ICTと聞くと、個人情報の取り扱いなどセキュリティを気にする人もいるだろう。慈恵医大では共有端末のカメラ機能を無効にするなど、事前にネットワークや機能制限などの設定をしたうえで端末を配布している。

 また、チャットアプリのCLOMO IDsでは、チャットのログを取っており、保存期間を超えると自動でチャット履歴が端末から消去される。仮に、端末を紛失してしまった場合も、24時間365日対応するコールセンターのオペレーターが端末を遠隔ロックしたり、データ消去したりするという。

 ただし現状は、患者を特定できるような個人情報は、まだスマートフォンではやりとりしていないのだという。当然ながら今後はクラウドで患者情報をやりとりすることも視野に入れているため、「どこまで許容するか、どこまで高いセキュリティが必要なのか、医療機関の間でガイドラインを設ける必要があるかもしれない」と髙尾氏は話す。

 また、院内にはスマートフォンの操作に慣れていないスタッフもいる。医療ICTの環境をせっかく整えても、肝心のスタッフが満足に使えなければ宝の持ち腐れとなってしまう可能性がある。この点については、画像や矢印など視覚的で理解しやすいマニュアルを作成できるツール「Teachme Biz」を活用して、各種設定など基本的な使い方からサポートしている。

マニュアル作成ツール「Teachme Biz」を活用
マニュアル作成ツール「Teachme Biz」を活用

 また、髙尾氏は「“エバンジェリスト”は、やはりスマートフォンを普段から使いこなしている若い研修医たち。彼らが使いたくなるようなアプリを(業務に)入れていくと、それに引きずられて教授たちも使うようになる」と話す。今後は、スタッフ向けに講習会を開催するなどして、より多くのスタッフがスマートフォンを活用できるようにしていきたいという。

2019年までに医療ICTを“本稼働”

 全スタッフにスマートフォンを配布し、まずはナースコールを刷新した慈恵医大。これまで、看護婦はポケベルを所持していたが、通話をするにはナースステーションに向かうしかなく、すぐに患者の状況を把握することが難しいという課題があった。

ナースコールをiPhoneに刷新
ナースコールをiPhoneに刷新

 それがスマートフォンに変わったことで、看護婦は呼び出しがあったその場で患者の名前などを確認し、通話できるようになるなど、早くも導入の効果が表れているという。また、どの患者がナースコールを何回鳴らしているかなどのデータを蓄積して、どうすればナースコールの回数を減らせるかといった対策にも活用できると考えているそうだ。

 慈恵医大では、このナースコールを皮切りに、2016年度中にスマホ診察券や、会計スマホシステム、院内ナビゲーションシステム、外国人向けの翻訳システムなどを試験導入する予定。それぞれの検証を通じて、有用性があるものについては倫理委員会などで議論し、新病棟が建つ2019年にはすべてを運用できる状態にしたいという。事前に導入が決まっていれば、新病棟の建設に合わせて、院内ナビゲーションシステム用のビーコンを埋め込むといったことができるためだ。

  • 患者向け院内Wi-Fiサービス

  • スマホ診察券サービス

  • Beaconを活用した院内ナビゲーションシステム

 また、同大では医師同士で医用画像や院内のライブ映像(手術室・ICU)などを共有できるコミュニケーションアプリ「Join」をアルムと共同開発しており、すでに学会や世界中の医療機関で活用されているという。現在は、飛騨山脈南部にある慈恵医大の槍ヶ岳診療所にもJoinを提供し、スマートフォンを通じたコミュニケーションによる遠隔医療の可能性を探っているそうだ。

医療コミュニケーションアプリ「Join」
医療コミュニケーションアプリ「Join」

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