まずはシャッターの修理から。カメラのシャッターには大きく2つの種類がある。コンパクトカメラなどに多く見られ、レンズ部分にシャッター機構を搭載する「レンズシャッター」と、一眼レフカメラのほとんどで採用されている「フォーカルプレーンシャッター」だ。他にも、ドイツZeiss Ikon製の「Contax」に見られた「鎧戸シャッター」などもあるが、それはまた別の機会に。
キヤノネットでは、コパル製(現:日本電産コパル)のレンズシャッター「COPAL-SV」を採用しており、レンズとレンズの間にシャッター機構と絞りが挟まっている。この方式では、バネの力だけでシャッターを開閉させているのだが、経年でシャッターに油が回り、羽根が固着してしまうケースが多いようだ。絞り羽根も同じ理由で動かないと予想されるため、シャッターと絞り羽根の清掃を試みた。
まずは本体からシャッターユニットを取り出すために分解する。トップカバーを外した後は、ドライヤーを当てながら本体前面の貼り革(グッタペルカと思われる)を剥がすのだが、50年以上前のカメラなので、接着面も劣化しているからか「ペリペリ」と簡単に剥がれた。
隠しネジは合わせて4本。これを外すと、レンズユニットと本体に分離することができた。レンズユニットには、絞り機構、シャッター機構、ピント調節機構などが組み込まれており、このカメラの心臓部とも言える。また、消失していたファインダーの露出カウンター用の表示板も中から出てきた。こちらは、組み立て時に取り付ける。
キヤノネットは、電池不要で自動露出が使える、複雑な自動露出機構を搭載しているのだが、各パーツがユニット化されており、比較的メンテナンスしやすい。キヤノン恐るべしである。
シャッターにたどり着くには、前面のレンズを取り外す必要があるのだが、レンズの枠部分にある溝にはめて使う「カニ目レンチ」という工具で取り出すことができる。価格は、中華系とみられる工具で1000円台、国内メーカーのものだと4000円近い。なにせ100円で買ったカメラである。工具に数千円は中々厳しいものがあり、錦糸町のダイソーで先端が細いペンチとピンセット(合計216円)を購入した。
ペンチは先端をやすりで削りさらに鋭利にした。溝にペンチの先端をセットし、ゆっくり、しかし確実に力を入れると、レンズが回り始める。ペンチは剛性が高いため、先端のフィーリングを掴みやすい。無事に「ポロリ」とレンズの前玉を摘出。同様に2つ目のレンズも取り外すと、シャッターユニットが顔を出した。やりましたよ奥さん!
「でさ、どうやって閉じたままのシャッターを直すのよ」
ここは素直に、Google先生に助けを求める。どうやら、衣服の油汚れのシミ抜きなどに使用するベンジンが有効のようだ。ベンジンを綿棒にしみこませ、「がんばれ!がんばれ!」とシャッター羽根に念を送りながら、やさしくグリグリする。ふと、綿棒を見ると汚れており、やはり油で固着していたようだ。ある程度綺麗にしたところでシャッターを切ってみる(レンズユニット単体でシャッターが切れる)。
「カシャ」
「きたあああああああ!」「最the高」
シャッターはひとまず解決。次は絞り羽根の番だが、絞り機構自体はシャッターの裏にある。前玉と同じようにペンチを使って後玉のレンズ群を取り外すと絞りに到達した。なお、バルブ(レリーズボタンを押している間シャッターが開く)で正面から絞り羽根にアプローチする手法でも良かったのだが、スローシャッターの動きが怪しい段階ではそこまで踏み切れなかった。
絞り羽根もベンジンを含ませた綿棒でやさしくグリグリしていく。何度か絞りリングを動かしつつ、綿棒で絞り羽根を少しこじ開けると羽根が開き出した。しかし、また絞ると閉じたままになる。「いい子だ~いい子だ~」と根気よく綿棒で攻め続けたところ、スムーズに羽根が開閉し始めた。
本来であれば、シャッター羽根も絞り羽根もきれいに分解して1枚ずつ“ベンジン風呂”に漬けておいた方が確実なのだが、いかんせん作業が大変なので今回は諦めた。もちろん、シャッター羽根、絞り羽根ともに入念に清掃した。
最後は、最大の関門となるスローシャッターの不具合が待ち構えている。
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