スローシャッターの不具合は、「スローガバナー」と呼ばれる一種の「遅延機構」の不具合で発生するケースが多い。スローガバナーは、最高速度でシャッターを切ろうとするシャッター機構に介入し、指定した速度までシャッターを開くようホールドするための装置。歯車やガンギ車、アンクルなどで構成されており、指定された時間分この機構が動作する。
このため、スローガバナーの油切れやゴミが付着すると、スローシャッター時に「ジー、ジ、ジ……ジ」という音とともに動きが鈍くなり、指定した時間以上にシャッターが開いてしまう。最悪の場合、完全に動作を停止してシャッターが開きっぱなしになることもある。スローガバナーは、シャッター速度の精度を決める要なのだ(高速シャッターの場合、介入する時間が短いためかあまり問題になることはない)。
いよいよ、スローガバナーへの潜入を開始する。まずは、レンズユニット前面のセレン光電池を取り外すのだが、電池が発生した電気を本体側の自動露出機構に流す必要があるため、本体とレンズユニットの合体時に接点するよう、配線が裏側まで施されている。この部分のハンダを吸い取り、配線を外した。
また、自動絞りを実現するうえで必要になる、シャッタースピードの値を本体側に伝えるためのレバーも、セレン光電地の分離時に邪魔になるため、本来の位置をマーキングして取り外した。
メカメカしい歯車などが姿を現した。ボスのお出ましといったところか。ここには、シャッター機構、スローガバナー機構、セルフタイマー機構などが、それぞれのユニットになって集積している。その上には複雑な形に穴が開いている円形のプレートが覆っている。実は、各ユニットには機構のオン・オフを伝える爪のようなものが立っており、プレートの複雑な穴に引っかかるようになっている。プレートは、シャッタースピードのダイヤルと連動しており、「このシャッタースピード時にこの機構をオン・オフにする」といった各機構のコントロールを、このプレートがつかさどっているのだ。
試しにシャッタースピードを1秒にセットし、シャッターを切ってみる。「ジ、ジ…ジ」と音を立てているユニットを発見。その中のギアをつついてみると、たまにスムーズに回るようになる。
「こいつが犯人か…」
犯人逮捕に向け、スローガバナーの歯車の軸穴に、つまようじの先端に垂らしたミシンオイルを塗布してみる。が、あまり効果はない。仕方ないのでユニットを分解する。ユニットには小さな歯車が密集しており、上のカバーを外した瞬間、歯車がポロポロとユニットから外れはじめる。
「え、これ元に戻せるの?」と思いつつ、カバーからは隠れていたギアの軸受けに微量のミシンオイルを付ける。なお、歯車などは特に欠けておらず、ゴミなどが入っていた様子もないため、状態自体は悪くないようだ。苦心しつつも組み上げたスローガバナーからは、「ジーーーーーー」という音とともにスムーズな動作を見せ始めた。
無事、スローガバナーに勝利した。
あとは元に戻すだけである…これがまた大変なのだが…
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