ソニーは、6月17日午前10時から、東京・高輪の「グランドプリンスホテル新高輪」で、第99回定時株主総会を開催した。会場には2267人の株主が出席した。
議長を務めたソニー代表執行役社長 兼 CEOの平井一夫氏による開会宣言で株主総会は幕を明けたが、その際に、立ち上がって勝手に発言しはじめた株主がいたために、平井社長は「ご静粛にお願いします」と制止。だが、株主がそれに従わなかったために、議事進行を妨害する行為として、退場を命じるという波乱のなかでのスタートとなった。
代表執行役副社長 兼 CFOの吉田憲一郎氏による2015年度の事業報告では、「『PlayStation 4』は、2013年11月から2016年5月までに累計出荷4000万台を突破。歴代最速のペースで進んでいる。だが、スマートフォンの販売台数が大幅に減少したモバイル・コミュニケーション分野で大幅な減収となった。モバイル・コミュニケーション分野は、2016年度の黒字化に向けて、構造改革は順調に進捗している。またテレビ事業は、2014年度に11年ぶりに黒字化したのに加えて、コスト削減や高付加価値製品へのシフトにより、2015年度も安定した収益を確保した」と説明した。
続いて平井社長が、今後の経営施策と進捗状況について説明。「2012年度からの第1次中期経営計画では、ソニーの変革という点で一定の成果が出た。そして、2015年度からは、利益創出と成長への投資による第2次中期経営計画に取り組んでいるところである。一律には規模を追わず、利益性重視の経営姿勢がグループ全体に浸透してきている。また、成長に向けた一歩を着実に踏み出している。これまでの改革の成果が出ている」とした。
さらに、「最大の利益を計上し、今後の成長を期待しているのが、ゲーム&ネットワークサービスである。『PlayStation VR』は10月の発売を予定しており、ゲーム開発者とともに市場を盛り上げたい。デジカメなどのイメージング・プロダクツ&ソリューションは、大規模な投資をせず、着実な利益とキャッシュの創出を目指す。だが、イメージセンサの生産拠点において熊本地震の影響が出ており、2016年度の業績にも悪影響する。これが終息すれば、安定的に利益を確保できる。テレビ事業は、設計、製造、販売に渡る改革を進め、安定的に利益を確保する。いたずらに規模を追わず、利益を重視していく」とした。
「利益成長を持続するには、新たな事業領域とビジネスモデルが必要である」として、オリンパスとの協業による医療分野への取り組み、新規事業として『Life Space UX』などに取り組んでいることについても触れた。
説明の最後には、「ソニーは2016年、創立70周年を迎えた。だが、時代が変わっても変わることがないものがある。それは、真に魅力的な製品、サービス、コンテンツを通じて感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する企業でありたいという点である。ソニーは創造と挑戦の理念を、いつまでも持ち続けなくてはならない」として、70周年を記念して制作したビデオを放映。ビデオでは、「ソニーの歴史は、製品を作ってきた歴史ではない。常識を壊してきた歴史」として、「ハンディカム」や「ウォークマン」、「トリニトロン」などを通じて、「お父さんが映画監督になった」、「街がダンスホールになった」、「家がスタジアムになった」というシーンを示しながら、「New Story,New Sony」のメッセージを打ち出した。
午前10時35分ごろから、株主からの質問を受け付けた。
スマートフォン「Xperia」については、「高付加価値モデルに集中する戦略を取っている。その結果、売上高は減少しているが、利益率は上昇している。コアファンに新たな価値を提供するために、ソニーの技術力とデザイン力を発揮したい。特にカメラ機能において、差異化していきたい。また、基本機能の強化とともに、生活をサポートするインテリジェンスを搭載しており、その点では差異化が図れている」とソニーの執行役 EVPで、ソニーモバイルコミュニケーションズ代表取締役社長 兼 CEOを務める十時裕樹氏が回答。
平井社長は、「人と人のコミュニケーションニーズは常にある。スマホの次には、どうやってコミュニケーションをするのか、そこではどんなデバイスや、どんなビジネスモデルが必要なのか。そうした次の世界を議論しており、そこにおいて、ソニーがリーダーシップを取っていきたい」と述べた。
すぐに使える製品が少なく、アップデートが必要になる製品が多いことについては、平井社長が「ネットワークにつながったり、パートナーと一緒にプラットフォームで展開する製品があり、最新の環境で楽しんでもらうために、必要に応じてアップデートすることになる。私もアップデートの頻度は少ない方がいいと考えている。それに向けた改善も必要だろう。だが、これは商品を楽しんでもらうことを中心に考えているために発生していること。私もソニー製品のユーザーであり、その視点から、商品企画の現場に行き、フィードバックしている」などと語った。
有機ELディスプレイに対しての取り組みについては、執行役 EVPでソニービジュアルプロダクツの代表取締役社長である高木一郎氏が回答。「有機ELは、業務用ディスプレイで高い評価を得ている。だが有機ELテレビについては、さまざまな検討をしているが、現時点で話せることはない」と語った。
デジタルサイネージの取り組みについては、執行役 EVPでソニーのイメージング・プロダクツ&ソリューション事業担当、デジタルイメージング本部長の石塚茂樹氏が回答。「デジタルサイネージは、ソニーマーケティングの法人営業本部において担当しており、法人向けビジネスは順調。『BRAVIA』のBtoB向け専任部門を設置している」などとした。
2017年度には、ROE10%以上、営業利益5000億円以上を掲げる中期経営計画の目標に対して、業績が悪化しているモバイル・コミュニケーション事業とデバイスがどう貢献するのかといった質問については、「モバイル・コミュニケーションは、2015年度は構造改革を進めたために赤字となったが、2016年度は高付加価値製品に注力し、黒字化を見込む。2017年度も利益貢献があると考えている。
デバイスは、2015年度はバッテリ事業の減損などもあり赤字となった。2016年度も、熊本地震の影響があり、赤字の見込みである。だが、強みがあるCMOSセンサは利益に貢献。2017年度の計画に対しても利益で貢献する」と吉田副社長が回答。平井社長は、「IoTが広がることによって、センサ技術が重要視されるようになる。デバイスは、長いスパンで見ると大きく貢献するビジネスである」と位置づけた。
取締役会に、エレクトロニクス業界出身者、エンジニアリングに精通した経験者が少ないという指摘に対しては、「技術のソニーとしては、取締役会で、エンジニアルングについて議論することは必要であり、エンジニアリングのバックグランドは重要である。取締役会のなかでは、原田泳幸氏、伊藤穣一氏、ティム・シャーフ氏が、エンジニアリングのバックグランドを持っており、ソニーがエンジニアリングを生かして、新たなビジネスにどう入っていくのかを議論している」と語った。
女性の登用については「ソニー全体の17%が女性社員。管理職では7%を占める。エンジニアリングのバックグランドを持つ学生が限られているなかで、業界内でも積極的に女性の採用を推進している。執行役員では2人が女性」とし、「多様性は、経営にとって重要なポイントだと考えている。多様性こそがソニーの製品、サービス、コンテンツの差異化につながる」と回答した。
さらに、若者の新聞離れが加速するなかで、新聞への広告は不要ではないかという質問に対しては、直接的な回答は避けながらも「2015年度の広告宣伝費は前年比12%減の3913億円となっている。映画、音楽、ゲームの広告宣伝費の割合が大きく6割以上を占めている。映画は広告宣伝が業績に影響するので一定のコストがかかる。デジタル媒体にも積極的に展開しており、とくにエレクトロニクスについてはメリハリをつけた投資を行っている」と吉田副社長が回答。平井社長は、「SONYのブランドの価値を高めるための広告も投資していく必要がある」とした。
なお、第1号議案の取締役11名選任の件、第2号議案のストックオプション付与を目的として新株予約権を発行する件については、満場一致で可決。午前11時30分に株主総会は終了した。
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