久保田氏から、VRゲームならではの面白さや、適しているゲームとはどういうものかを質問した際、原田氏からは「キャラクターがプレイヤーを意識すること」を挙げた。いわゆる“四角い画面”でゲームをプレイしているときに、キャラクターがプレイヤーを意識することはなく、それが映画などの映像作品と比較される一因であると指摘。それが仮想空間に入り、キャラクターからの意識が加わるようになれば関係性が生み出され、強烈な体験となり面白さにつながると語る。また、「VRは嫌でも臨場感が得られ、乗り物のコンテンツなどは素晴らしいものが勝手に出来上がる。それ以上のもの、というのがキャラクターとの関係性やつながり」とも付け加えた。
水口氏は、VRゲーム開発の面白さとして「新しい体験をデザインし、それを提供すること」とし、過去の前例やお作法は通用せず、その延長線上から考えて開発してもイノベーションは生み出せないと指摘。原田氏も「やりたいと思っていたことに、ようやく技術のレベルが追いついてきた」として、今が一番楽しいときと一言。その一方で、イノベーションに対する価値の見いだし方やマネタイズが難しいため、今までのイノベーションのようにすぐには突き抜けないことのもどかしさも感じるとも語った。
馬場氏は、実際に制作したVRテニスゲーム「VR Tennis Online」の開発中、テニスゲームとしては面白いが、VRゲームにする必要性について疑問に思った時期があったという。実際にゲームでは、ダブルスで後ろを見るように仕向けてVR感を出したという。その背景には、黎明(れいめい)期において“VRらしさ”を出さないとユーザーが興味を示さないといった事情もあるという。一方でVRが普及して当たり前といえる時期になったならば、VR空間から出たくないというユーザーが増えてくるとし、従来型のゲームを移植して遊ばせるのもいいのではと語った。
水口氏は、これまで映像というメディアが誕生してから四角い画面で表現するという制約にとらわれ続けてきたことに触れ、制約がクリエイティブを生み出す側面はあるものの、VRはその制約を完全に取っ払うものであり、何をしてもいいという空間は「結構すごいこと」と一言。
その意見に原田氏は同意しつつも、「視線誘導が難しい」という、VRだからこその難しさを語った。これまでの四角い画面では、見せたい方向を制作者の都合にあわせて向かせることができ、意図したような演出を表示させることが可能だった。VRではユーザー自身がカメラとなるため、いかに誘導するかを考える必要があると同時に、空間内のあらゆる部分を作り込まないといけないため、コストもかさむと語った。ちなみにサマーレッスンでは、よそ見をすると女性が怒り出すという形で視線誘導を行っていると付け加えた。
コストに関する話題では、原田氏はサマーレッスンにおける事例として、ひとつの部屋に机と椅子を置いて作ったときに、リアルに感じられなかったという。実際の部屋として感じられるようにエアコンやコンセントを付けたり、さらにはダクトも必要。このように細かいところまで再現して、やっと部屋として感じられるようになると語る。このようにリアルさや臨場感を出すために情報量を多くする必要があり、その分のコストがかかると主張する。
一方の水口氏は、試行錯誤の手間や時間はかかっていると言えるものの、そこまで格段にコストが跳ね上がるというイメージはなく、想定の範囲内と語る。増えている部分もテクノロジーの進化によって軽減されているところもあるとしている。このあたりは、サマーレッスンのように現実世界を再現するかのような臨場感のあるものとするか、Rez Infiniteのようにアンリアルな方向性に持っていくかで違いが出てくるものとしている。
また馬場氏は、ゲームとは少し異なるが360度映像について、意外にコストがかかるものと説明。映像保存用のハードディスクについて、見積もりを取ったところ500万円という金額が上がってきて驚いたという。360度映像の場合、4Kの画像を8枚同時に撮影することに加え音源も収録するとなるとデータ量が膨大になり、1本の映像を制作するとなると1Tバイトや2Tバイトぐらいの容量がかかってしまうという。こういったことからデータ量の増加によるコスト増も指摘した。一方で、海外ではリアルから3Dに取り込む技術が流行していることに触れ、この技術が活用されるようになると、コストが下がる可能性もあるという。
原田氏は将来的なコスト増の可能性も言及。現在はHMDを装着して楽しむ時間は、たいてい長くても数十分程度であり、ミニコンテンツのようなものが主流となっている。この先MMORPGのような長時間遊ぶようなものが出てくるようになった場合、現状のコストでは無理との見解も示した。
水口氏は日本のゲームにおいてフリー・トゥー・プレイ(基本無料)のマネタイズシステムが浸透しているものの、欧米におけるコアなゲームユーザーでは、お金を払うので保証されたコンテンツを提供してほしいという意向が強いという。VRコンテンツを世界展開するさいに、こういった状況を踏まえつつ、どのような形で提供しマネタイズを行うのが、ユーザーにとってリーズナブルかつ満足できるものなのか。それによってもかけられるコストも変わってくると指摘した。
日本におけるVRの普及について質問が及んだとき、原田氏はパブリックな場所で展開しているVR ZONEは想定よりも好調で、試みとして成功しているという。その一方で、お台場という立地もあり一般層とVRに対して強い興味を持っている層がターゲットになっていると説明。「仮想の世界にいたいのに、お台場まで行かなければいけない」と、一種のジレンマがあると指摘し、家で楽しめる環境の構築とともに、パッケージゲームにお金を払ってくれるようなコアやミドルコアのユーザーをターゲットとして、エコシステムのサイクルに組み込む必要があると語った。原田氏と水口氏がPSVRに参入したことについては、PS4が世界で広く普及していることから入口として入りやすく、さらに所有しているのはゲームに対して前向きなコア層でもあり、ターゲットがわかりやすいからとも付け加えた。
コンテンツを提供していくVRデバイスの考え方についてもそれぞれに問うと、馬場氏はモバイルVRではVRならではの体験が100%のものが提供できないとし、ハイエンド向けのものを考えていると語る。原田氏は、画面と連動し筐体の揺れや傾きまでも搭載したアーガイルシフトを「VRの特性を100%生かしたもの」を表現し、逆にこれをコンシューマでは無理なことであるため、映像だけでも十分なものを用意できるハイエンド向けでやっていくスタンスでいるという。
一方、水口氏は「ハードは余り意識しない」と2人とは少しニュアンスの違う意見を出した。ARの技術やモバイル端末の進化もスピードが早いことが予想されるため、ハードに縛られずにどんなデバイスでも妥協せずにクオリティの高いものを提供していくとの考えを示した。
セッションの締めくくりとして、どのようなVRゲームを作っていきたいかを質問。馬場氏は、VRに適したコンテンツやジャンル、そしてどのようなものがユーザーに響くかがまだ模索している段階であるため、とにかくたくさん作ると語り、実際4~5本程度制作中という。原田氏はあくまで個人的な考えと前置きしつつ、HMDを装着した状態で廃虚の街の屋上を眺めながら何時間も待ち続け、人影が見えたらスナイパーライフルで狙撃するというもの。この案には笑いも起きていたが、時間と世界をパッと切り替えられるものがいいとした。水口氏からは、この1年の経験でも気づきが多くやりたいことも増えている状態とし、さまざまな形で新しい体験を提供していきたいとした。
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