では今後、Apple Watchを含むスマートウォッチの出現を受けて、時計業界はどう変わっていくのか。短期的には質の改善が一層進むだろう。スイス、ドイツ、日本のメーカーは今後、Apple Watchに並ばれた、または部分的に追い越された外装の手直しに取り組むはずだ。ケース製法を変えるのは難しいにせよ、文字盤と着け心地は、すぐにでも改良できる。とりわけ文字盤の質感向上は、スマートウォッチとの差別化を図る上で、切り札になるだろう。
長期的に見た場合、どういう変化が起こるのか。フレション氏は正しく予想できないと前置きした上で、「(大資本を持つ)大グループがスマートウォッチに傾倒していくことは十分に考えられる」と述べた。FossilやMovadoは、こういった動きの先駆けだろう。ただ新しくリリースされるスマートウォッチが、ハードウェアとして見た場合、Apple Watchほどの完成度を持てるかは疑わしい。各社は、Apple Watchと被らない、ニッチなスマートウォッチを開発していくだろう。カシオのSmart Outdoor Watch「WSD-F10」は一例と言える。
もっとも筆者は、Apple Watchを手放しで礼賛するつもりはない。ハードウェアとしてみた場合でさえ、弱点は多々ある。多くの関係者が指摘するように、ケースはまだ薄くできるし、プアな防水性能と短い駆動時間は早急に改善すべき点だろう。またメンテナンスという課題も残されたままだ。
ちなみにスマートウォッチのソフトウェアがどう進化するのか、筆者には分からないし、語るつもりもない。ただスマートウォッチの未来を左右するのは、ソフトウェアよりも、ハードウェアとしての成熟だと筆者は考えている。仮に素晴らしいアプリを載せても、頻繁に腕から外さざるを得ないような制約がある限り、ツールとして定着するのは難しいし、AppleやIntelが望む「社会のインフラ」にもなれないだろう。筆者が思うに、その点をもっとも理解しているのはAppleではないか。でなければ、Apple Watchが第1作で、あれほどの完成度(弱点はあるものの)を備えた理由を説明できない。
2015年に生産されたApple Watchは、約600万本と(推定値)いう途方もない数だ。しかしこれはあくまで第一歩に過ぎない。ハードウェアとしての弱点が改善されれば、Apple Watchを含むスマートウォッチは「少し便利なデジタルウォッチ」という立ち位置を脱して、多くの可能性を手にするだろう。ちなみにスタース氏はこう予言した。「1000ドル以下のクォーツはすべてスマートウォッチになる」。実際そうなるかは分からないが、可能性は誰にも否定できないのである。
「Apple Watch」は時計市場を変えたのか(前編)--時計ジャーナリストが振り返る1年時計ジャーナリスト。
時計専門誌『クロノス日本版』主筆。サラリーマンを経て現職。クロノス日本版をはじめ、『LowBEAT』『日経ビジネス』などに執筆多数。共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞社)『アイコニックピースの肖像 名機30』(シムサム・メディア)など。ドイツの時計賞「ウォッチスターズ」審査員。
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