鴻海精密工業によるシャープの買収に関して、正式調印が行われた。
4月2日、大阪・堺の堺ディスプレイプロダクトで、鴻海精密工業を中核にする鴻海科技集団の董事長(会長)兼最高経営責任者(CEO)である郭台銘(テリー・ゴー)氏と副総裁である戴正呉氏、シャープ代表取締役社長の高橋興三氏が出席して、調印した。
シャープは、3月30日に第三者割当による新株式(普通株式とC種類株式)を発行し、これを鴻海が取得することを発表。鴻海の出資額は約3888億円となり、シャープの株式の66.07%の議決権を得る。
国内電機大手の一角を占めるシャープが、台湾資本のもとで再建を図ることになる。
会見で郭氏は「グローバル企業同士が独自のリソースを持ち寄り、お互いに補完しあうことで成功できる。鴻海とシャープは、文化的な違いがあるからこそ、うまくいくと考えている」と意欲を語った。
出資を巡っては、これまで二転三転。当初は約4890億円としていた出資額は約1000億円の減額となったが、「今回、正式に契約した。今後、減額をすることはない」と述べた。
契約には、10月5日までに出資が実行されない場合に鴻海がシャープのディスプレイ事業を購入する権利を与えることが盛り込まれているが、「実際に破談になることは99.999%ない。条項としては万が一のために入れている」と説明した。
今後、有機ELへの投資が加速することが見込まれるが、会見では、IGZOへの投資を加速する姿勢を強調してみせた。
「次世代IGZOや有機ELなどのディスプレイ技術、カメラモジュールやセンシング技術にも投資していくが、ぜひ、IGZO技術に注目してほしい。IGZO技術は世界トップの技術である。コスト削減メリットがあり、小型化も可能である。私がエンジニアであれば、有機ELよりもIGZOを推したい」(郭氏)
シャープのブランドは今後維持されることになり、雇用についても郭氏は「鴻海は毎年、個人の成績を理由にしてレイオフする人員が3~5%に達している」としながらも、「日本では、最善を尽くして雇用を維持したい」と述べ、「若い人材にも適職とチャンスを与えて、残ってもらうようにしたい。適切な責任とポジションを見つけるように努力する」と語った。
だが、「シャープには技術の統合がうまくできていない課題があり、全体を見渡す人がいない。シャープは、ディスプレイの技術は優れているが、スマートフォンでは後れを取っている。これはスマートフォンのチームに優秀な人がいないわけではなく、適材適所になっていないことが原因。複数のチームを管理する役職が必要だ」などと語った。
シャープの黒字化については2~4年を目安にする考えを示しながら「優れたシャープ製品が登場し、これを購入してもらえれば、短期間で黒字化することを保証する」などと述べた。
一方で、郭氏は「日本に来ることが大好きであり、大阪に初めて訪れたのは30歳の誕生日」と66歳の現在まで日本と緊密な関係があることを強調。2015年に鴻海が日本から210億ドルの部品や製品を輸入し、120億ドルを日本に輸出した実績を挙げて、こう語った。
「シャープが技術のイノベーターとして、またリーダーとしての役割を果たしてきたことに敬意を表する。創業者である早川徳次氏のイノベーションに対する意思は、今でもシャープの社員の間に息づいている。初のシャープペンシル、ラジオ、電卓、白物家電の参入などイノベーションの企業であることを証明してきた。このイノベーションのDNAがあるから、私はシャープが大好きである」
さらに、「シャープといえば品質である。中国科学院のフェローをしている友人は、1986年に米国で客員研究員をしたが、北京に戻るときにシャープの冷蔵庫を購入。それが30年後の今も問題なく動いている」というエピソードを披露。「シャープの技術者には不屈の精神があり、これが、シャープがいいときも悪いときも支えてきた。イノベーションを続け、技術と品質に挑み続けている企業である」と評価した。
シャープの高橋氏は、「鴻海精密工業による資本提携を軸とした広範な戦略パートナーシップでシャープの事業拡大に寄与するとともに、財務体質の改善にも貢献し、堺ディスプレイプロダクトですでに提携、協業に成功している両社のシナジー効果がさらに見込まれる。鴻海が保有する世界最大の生産能力とグローバルな顧客基盤、シャープが持つ革新的で実績のある技術と開発力の融合を図ることができる」と意欲を語った。
「お互いの企業文化を尊重し、認め合うことで両社が持つ創意の遺伝子とベンチャースピリットの融合を図り、アジア初の新たなプロダクトイノベーション、開発、製造の姿を示したい。今回の提携で近年、抑制せざるを得なかった新たな成長に向けた投資を行っていくことも可能で、IoTとロボティクス製品の開発、製造で顧客によりよい生活をもたらし、世界の文化と福祉の向上に貢献できる」(高橋氏)
また、「シャープ自らが脱皮し、これから10年、100年に渡って、世の中になくてはならない会社になるために、新たな価値を提供する企業を目指す」とブランドを維持しながら、独立性を維持した企業となる方向性を強調してみせた。
ニトリホールディングスに売却が決定している大阪市阿倍野区の本社ビルについて鴻海の戴氏が「できれば買い戻したい」と発言し、「それが無理であれば、近くにある68年の歴史を持つ1800平方メートルの場所を使い、この建物の最上階に創業者の早川徳次氏の博物館を必ず作る」などと述べた。
今回の調印では、高齢化社会に貢献する実験的なスマートホームとしての役割を持つ、早川徳次記念館の建設に関して、鴻海が資金面で支援することを約束する覚え書きにも調印している。
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